築地市場跡地(中央区、約19ヘクタール)の再開発を担う事業者が5月1日に会見を開き、5万人を収容できる多機能型スタジアムなどの提案内容について説明した。
中でも注目されていたのが、読売巨人軍の本拠地が築地に移るのかどうか。東京ドームは開業から今年で36年を迎えるが、巨人のオーナーも務める読売新聞社の山口寿一社長は、
「巨人軍の本拠地移転を前提に検討してきたものではございません」
と、築地への本拠地移転に口を濁した。山口社長は続けて、
「プロスポーツを持つ読売としては、魅力あるスタジアムを使ってみたい気持ちはあります。ただし、移転を前提として計画してきたものではないし、その予定で進んでいるわけではない。プロ野球球団の移転はなかなか大仕事で、相当の調整が必要となる。読売だけで決められるものではない」
この「読売だけで…」の最後の文言に、球団オーナーの本音がチラリと見えた。
築地への本拠地移転の障害となる要素は、主に3つある
①地元経済にもたらす悪影響
②小池百合子東京都知事の「ちゃぶ台返し」
③野球人口の減少
現在の本拠地、東京ドームがある文京区は東京大学をはじめ、つい先日、松田聖子が卒業した中央大学などの大学や高校が集まる文教都市だ。その一方で、企業が少なく、法人税収入が少ない自治体として知られる。
築地再開発の担い手である旧財閥・三井グループにとってはグループ企業の祖、三井11家の中でもNHK朝ドラ「あさが来た」ヒロインの生家モデルとなった小石川三井家の本宅があった土地だ。もし読売巨人軍の本拠地が築地に移った場合、地元の経済的損失は大きく、読売新聞社が巨人軍の築地移転を望んだとしても、再開発事業者代表の三井不動産が二つ返事で了承はしないだろうと推察できる。
さらに全国紙運動部デスクが言うには、
「それでも築地への巨人軍本拠地移転はほぼ決まりかけていた、と言われていたのをひっくり返したのが、小池百合子都知事でした」
売り手側たる東京都の事情もあると、説明するのだ。続けて、
「小池都知事は2016年に就任後『東京五輪後、築地市場跡地には食のテーマパーク機能を有する新たな場とする』という構想を発表しました。築地に食の観光名所ができると、豊洲市場移転の影響を受けた場内市場関係者への経済補填になる。その上、東京都が運行する水上バスで浅草から築地、東京臨海副都心への水上観光ルートが整備され、オーバーツーリズムによる公共交通機関の混雑、道路渋滞が緩和されます。さらに青島幸男元都知事が中止にした世界都市博覧会開催予定地の東京臨海副都心、石原慎太郎元都知事による豊洲市場移転で燻り続けた関連企業の怨嗟を、小池都知事は自らの支持へと取り付けることができ、美味しいところをまるまる持っていった」
そして最大の障害が「プロ野球人気の低迷」と「野球人口の減少」だ。
観客動員ピークの2019年には、巨人戦のホーム球場観客動員数は年間302万7682人、1試合平均4万2643人を集めていた。ところが新型コロナの行動制限が明けた2023年は年間270万8315人、1試合平均も3万8145人と伸び悩んだ。
減っているのは観客だけでなく野球人口そのものであり、過去20年間での減少数は300万人超。ファン数200万人台にまで激減しており、とりわけ10代が100万人を切るXデーまで、カウントダウンに入っている。
東京ドームや神宮球場にナイターを見に行っても、今シーズンは特に子供連れの観客が手作り弁当を持参している光景が当たり前になってしまった。ビールと弁当を買うだけで5000円近くも散財するので、球場内での飲食の買い控えが起きているのだ。
道具も観戦チケットも他スポーツに比べてカネがかかる野球は、子供にも親にも「贅沢なスポーツ」として敬遠される傾向にある。
今から築地に本拠地球場を作ったところで、20年前と同等の収益化はおよそ見込めず、プレーする選手が集まるのかすら、危ぶまれる。
読売巨人軍は老朽化する東京ドームと一蓮托生、ともにプロ野球衰退へと進む未来を選ぶことになるのか。
(那須優子)