「僕はテンハッピーローズでGIを獲りたい。今回の阪神牝馬ステークスでの着順の如何にかかわらず、次のヴィクトリアマイルにはぜひ出走させて下さい!」
前編では、5月12日に東京競馬場で行われたGI・ヴィクトリアマイル(4歳以上牝馬、芝1600メートル)で、ブービー人気(15頭立て14番人気)のテンハッピーローズ(牝6歳)を「まさか」の1着へと導いた津村明秀(美浦、フリー)が、前走のGⅡ・サンケイスポーツ杯阪神牝馬ステークス(芝1600メートル)に向かう際、オーナー(馬主)や調教師らを前に概略、上記のように「進言」していた事実を明かした。
しかも津村はこの時、同日に中山競馬場で行われるGⅡ・ニュージーランドトロフィー(3歳、芝1600メートル)で、師匠と仰ぐ鈴木伸尋調教師(美浦)から依頼されたサトミノキラリ(牡3歳)への騎乗をあえて断り、阪神牝馬ステークスに出走すべく、テンハッピーローズとともに「西下」したのだった。
しかし、人馬ともにGI初制覇となったヴィクトリアマイルでのテンハッピーローズ激走の「サイン」は、これだけではなかった。
前走の阪神牝馬ステークスでは、ヴィクトリアマイルで1番人気(単勝2.3倍)に推されたマスクトディーヴァ(牝4歳)と0.4秒差の6着に肉薄している。にもかかわらず、ヴィクトリアマイルでのテンハッピーローズの単勝人気は208.6倍。この一事をもってしても、まさに絵に描いたような超穴馬、いわゆる「人気の盲点」に該当する「お宝馬」だったと言える。
それだけではない。同馬を管理する高柳大輔調教師(栗東)は戦前、「テンハッピーローズは1400メートルがベスト。今回のマイル(1600メートル)はどうかなぁ…」などと、競馬マスコミに対して「泣き」を入れていたのだ。
ところがフタを開けてみれば、何のことはない、並み居るGI馬を退けての、目の覚めるような圧勝劇。高柳調教師の弱気発言は、まさに自陣営の「勝負度合い」の高さを他陣営に悟られないための「煙幕」だったと言っていい。
津村の鬼気迫る懇願、前走で示した互角の能力、そして高柳調教師の煙幕。舞台裏を詮索するオールドファンであれば、間違いなく「ピン」と来たはずである。(終わり)
(日高次郎/競馬アナリスト)