MLBドジャースの大谷翔平は、5月27日に予定していたメッツ戦が雨天中止となり、球場で報道陣の取材に応じた。注目されたのは、ロバーツ監督が明らかにした、5月16日のレッズ戦で牽制球が当たった左太腿裏(ハムストリングス)の状態だった。
5月25日の試合の3打席目にライト方向への3塁打を放った際には、1塁ベースを回ってもトップスピードに乗ることはなく、ゆっくりと3塁に到達。足の状態が心配されていた。ハムストリングスの打撲について、大谷はこう話した。
「日に日によくなってきている。スイングにはそこまで影響はない」
筋肉の張りではなく打撲部位の筋肉損傷で、大事には至ってないことを強調したのだった。
ロバーツ監督は5月25日の囲み取材で、
「盗塁をしようとしないこと。スマートであること。そして、彼がラインナップにいることの価値が全てだ」
と大谷に「盗塁封印令」を出したが、それでも大谷は翌26日の9回に盗塁を狙う素振りを見せている。大谷には今季、狙っているタイトルがあるからだ。メジャーでもまだ史上5人しか達成していない「40-40」、すなわち「40本塁打、40盗塁」の栄冠である。
過去にこの記録を達成したのはバリー・ボンズやアレックス・ロドリゲス、ホセ・カンセコなど、メジャー球史に残る名選手ばかり。昨季2023年にはアトランタ・ブレーブスのロナルド・ホセ・アクーニャ・ブランコ・ジュニアが5人目となった。
その「40-40」を実現するために、ハムストリングスを痛めた大谷が受けているとみられるのが「自己・多血小板血漿注入療法(Platelet Rich Plasma療法)」だ。
大谷は2018年に右肘を痛めた際にも、PRP療法を受けている。患者本人から血液を採取、余分な成分を取り除いた血小板を高濃度で含む血漿(けっしょう)を、損傷部位に注射する。高濃度血小板には様々な成長因子が含まれており、損傷部位の痛みや炎症を抑えることができるほか、腱や筋肉の修復力をアップさせる効果がある。
日本国内では加齢で変形した膝関節の疼痛緩和、再生治療(自費診療、保険適用外)として注目されており、一部論文ではPRP療法を受けた患者の60%が、膝の痛みが軽減したとの報告もある。自分の血液を使うので、副作用が少ないのがメリットだ。
欧米ではPRP療法は主にスポーツ医学に応用されており、膝や肩の損傷、アキレス腱損傷、ハムストリングの肉離れにも高濃度血小板を注射する。打撲による痛みを取る効果も期待できる。
雨天で現地時間5月29日にダブルヘッダーとなったメッツ戦、束の間の休養と先端医療の恩恵を受けて、大谷には連敗脱出の決勝打を放ってほしい。
(那須優子/医療ジャーナリスト)