サッカーの欧州リーグで活躍する日本人選手の今シーズンを振り返る、忖度なしのレーティング企画(5点満点)。題して「海外サッカー日本人プレイヤー/リアル通信簿2023-2024」の第4回で取り上げるのは、プレミアリーグ(イングランド)の名門・リバプールに所属するMF遠藤航だ。
2019年から5年間在籍したドイツのシュツットガルトでは、1対1での強さを意味するデュエルで2季連続の勝利数1位に輝き、文字通りの「デュエル王」と呼ばれていた。
実績は十分だったが、移籍マーケットでは噂レベルでさえほとんど名前が挙がることがなく、23/24シーズンも「残留」が既定路線と見られていた。
それが急転直下、昨年8月16日に名門リバプールが接触しているという一報が流れると、2日後にはあっという間の電撃移籍が発表されたのだ。
中盤の補強に動いていたリバプールは、エクアドル代表のモイセス・カイセドを大本命としていた。しかし、契約寸前に「英国サッカー史上最高額」の移籍金、1億1500万ポンド(約228億円)でライバルのチェルシーに強奪されてしまう。
さらに、第2候補でベルギー代表のロメオ・ラビアもチェルシー行きを選択。そこで白羽の矢が立ったのが、指揮官のユルゲン・クロップ監督が以前から興味を持っていた遠藤だった。サッカーライターが当時の状況を話す。
「若手有望株の獲得を待ちかねていたサポーターは、イングランドではほぼ無名で、しかも30歳(当時)のアジア人選手の加入に懐疑的でした。遠藤のSNSアカウントには、批判的なコメントが多数寄せられたのです」
しかも、名将のハイレベルな戦術を理解し、超一流選手だらけの中に入り、プレーのイメージを共有するまでには時間がかかるのは当然のこと。メディアやサポーターから「お荷物」扱いされる時期があった。
しかし、遠藤は第15節のシェフィールド・ユナイテッド戦以降、レギュラーに定着することになる。
「試合中にクロップ監督から集中しろと言わんばかりに、ビンタされる場面がありました。裏を返せば、強烈な愛情表現は期待の表れでした。遠藤は激しいプレスでボールを奪うと、中盤でコンビを組む、ゲームメイカーでアルゼンチン代表のマック・アリスターにパスをつなげる。この作業を徹底したことで、チームにフィットしていったのです」(前出・サッカーライター)
遠藤の存在感を高めたという意味で象徴的だったのは、第36節のトッテナム戦(4-2で勝利)と、第37節のアストン・ヴィラ戦(3―3で引き分け)だろう。
ともに先発出場していた遠藤が終盤に交代させられると、そこから試合のテンポが悪くなり、チームは立て続けに失点を許した。2試合続けて後味の悪い試合となったが、これが皮肉にも「エンドウ」の評価を高める結果になったのだ。
しかし、シーズン終了後にはクロップ監督が勇退。来季からアルネ・スロット監督が指揮を務めることが発表されると、またしても逆風が吹いているという。前出のサッカーライターが解説する。
「欧州メディアで新生リバプールの補強選手に名前が挙がるのは、遠藤と同じ守備的ミッドフィルダーの若手選手ばかりです。遠藤については、来季はバックアッパーか、もしくは放出の可能性まで触れられていますね。さらに、夏に開催されるパリ五輪のオーバーエイジ(24歳以上の選手枠)の最有力候補で、招集されると新チームの始動に遅れて合流することは必至。戻ってきた頃には、最後尾の序列になっているかもしれません」
思い出されるのが、元日本代表の香川真司だ。香川は、ナイトの爵位を与えられたアレックス・ファーガソン監督に気に入られて、12/13年シーズンにマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)に移籍すると、1年目にプレミアリーグでアジア人初のハットトリックを達成する活躍を見せた。
ところが、シーズン後にファーガソン氏が監督業を引退すると、新監督のデビット・モイーズ氏には冷遇され、早々に古巣のドルトムント(ドイツ)へ戻っている。遠藤が、そんな悲劇の二の舞にならなければいいのだが…。
さて、採点簿に入ろう。電撃移籍だけで十分な驚きだったが、ついにはレギュラーの座を奪い、プレミアリーグの豪華布陣の中で平然とプレーする姿は、もっと日本国内で評価されるべきだろう。
チェルシーに移籍したカイセドは、英国史上最高金額に見合ったインパクトを残せず、期待外れの烙印を押されている。ラビアにいたっては、プレミアリーグの出場はたったの32分間だ。
超お買い得でサポーターに期待されず、それでも獅子奮迅の活躍を見せてレギュラーの座を奪い取った遠藤には、文句なしの「5」をつけたい。
(風吹啓太)