だが、代表監督に就けるかどうかは不透明でも、他に侍ジャパンに関わる手はある。それが「総監督」だ。日本野球機構(NPB)関係者は言う。
「例えば13年の第3回WBCでは山本浩二監督をサポートする形で、第1回大会監督の王貞治氏が特別顧問に、第2回大会監督だった巨人・原辰徳監督がシニアアドバイザーという役職に就いています。ミスターも同じように、特別アドバイザーや名誉監督、あるいは総監督として全体をまとめつつサポート、帯同することは可能でしょう。ミスター自身もそうした立場でもかまわない意向を持っている、と聞いています」
あるいは、編成委員長といったGM的な役割を担うことも考えられているという。NPB関係者が続ける。
「チーム編成をどうするのかという時、五輪は7月から8月にかけて、プロ野球のシーズン真っただ中に開催されるわけで、各球団から誰を何人派遣するかで間違いなくモメます。そうした時に、GM的立場で動いてくれれば解決する。ミスターの要請なら断りづらいでしょう」
こうした侍ジャパンに関与する希望はミスターのみならず、読売グループをはじめとする周囲、野球関係者も持っている共通認識だという。
「ちなみに、五輪組織委員会の会長は、ミスターを師と仰ぎ尊敬してやまない松井秀喜氏の後援会名誉会長である森喜朗元総理。日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長も、熱心な長嶋ファンです」(スポーツ紙デスク)
五輪での復帰を模索するミスターには、ある「美学」があるという。読売グループ関係者が明かす。
「それは、颯爽と復帰したい、というものです。巨人の側近スタッフも言っていましたが、ミスターは『こういう逆境から復帰するとカッコいいだろ』と笑っていた、と。まさに颯爽と東京五輪の壮行会に出てきて、『金メダルを取るぞ!』とスピーチしたいのです」
国民的大スターとしての理想の姿、プライドがそう思わせるのだろう。
「侍ジャパン総監督」として東京五輪出場を果たした際、実はもう一つ、大きな「役割」を担う可能性があるという。先の「最後に走りたいのが目標」というミスターの告白を思い出してほしい。例えば96年のアトランタ五輪で、パーキンソン病に侵され震える手で聖火台に点火して感動を呼んだボクシング元世界ヘビー級王者、モハメド・アリのような──といえばわかるだろう。
「聖火ランナーの最終走者として点火する大役ですよ。侍ジャパンのユニホームを着る困難に比べれば、これははるかに現実的です。五輪開催という国家的行事に、まさに国民の代表である国民栄誉賞受賞者が聖火ランナーとして登場するのは理想的であり、大いに盛り上がる。誰も反対などしないでしょう。ミスターも最低限、聖火ランナーという立場での出場を、と考えている」(NPB関係者)
侍ジャパン総監督、そして聖火最終ランナー実現のための執念は、リハビリにだけ見られるわけではない。特番では、こんなナレーションが流れた。
〈ここ数年、長嶋はさまざまなイベントや表彰式など、公の場に姿を見せる機会が格段に増えた。野球関係者との会合や会食は、少なくない。脳梗塞の後遺症で、言葉はしゃべりづらい。そのような状態では、人と話すという日常的な行為にも、たいへんなストレスがついて回る。しかしそれでも、長嶋はあえて人前に出て、積極的に話そうとしている〉
ミスター自身、番組内でもそれを認めている。
「外へ出てね、いろんな人に会って、勉強して、やることがね、この病気に勝てるんだという気持ちを、本当に実感として思ってたわけ。だからね、どんどん(外に)出ようという気持ちがあるわけね」