将棋の永世王位タイトルがかかった藤井聡太七冠に渡辺明九段が挑む「伊藤園お~いお茶杯 第65期王位戦七番勝負」の第2局2日目が7月18日、北海道函館市の「湯元啄木亭」で行われた。
序盤から攻めあぐねた藤井王位が17時40分に投了。渡辺九段が97手で勝利し、対戦成績は1勝1敗のタイに持ち込まれた。
日本将棋連盟函館中央支部の呼びかけで2016年から毎年、当地で将棋指導会を開いている渡辺九段にとって、函館はホームタウン。片や「アウェー」の藤井七冠には「誘惑」が多すぎた。
7月11日付の本サイト記事で紹介したように、函館は「テツの聖地」。JR貨物の旧式機関車から市電、第三セクターの道南いさりび鉄道、北海道新幹線の延伸で廃止が決まっている函館本線一部区間まで、見どころ満載である。さらに前夜祭で函館入りした藤井七冠は、
「函館は海の幸をはじめ、ご飯がおいしいイメージ。対局中の食事やおやつをいろいろ用意していただいて、対局前から長考していました」
勝負メシ、勝負おやつを楽しみにしていた様子だ。そんな藤井七冠が第2局で選んだメニューは…。
●1日目午前中おやつ:小倉とりんご餡いりパイまんじゅう「ロマネスク函館」、トマトジュース
●1日目昼食:道南大地の恵み2段重箱(津軽海峡産のマイカと北海道産米を使ったいかめし、うに丼、サクラマスの西京漬け、ひこま豚のしょうが焼き)、アイスティー
●1日目午後おやつ:テリーヌ・ド・ショコラ、アイスティー
●2日目午前中おやつ:チーズオムレット、アップルジュース
●2日目昼食:キンキ一番だしラーメン(塩ラーメンを食べ終わったあとで高級魚のキンキと北海道産昆布からとったダシで食べるお茶漬け用の焼きおにぎりつき)、アイスティー
●2日目午後おやつ:オレンジジュース
…ここで藤井ウォッチャーならお気付きだろう。昨年度までスイーツと一緒に必ず頼んでいたと言っても過言ではない、アイスコーヒーやアイスオーレを、今年度は5月18日、19日の名人戦第4局を最後に封印しているのだ。
パイ饅頭にも、テリーヌドショコラにも、チーズオムレットにもアイスコーヒーは最高に合うはずだ。それなのにアイスコーヒーではないなんて…。特別協賛の「伊藤園お~いお茶」に忖度しているわけでもなかろう。
それどころか今年度に入って、かぼすビネガーやかぼすハチミツ、胡麻バナナのスムージーに今回のトマトジュース…と21歳の若者にしてはドリンクのチョイスが「健康志向」なのである。
6月の叡王戦でタイトルは手放したものの、今年度は八冠全制覇からスタート。全タイトル戦に臨む藤井七冠だからこそ健康を気遣うようになった、というのなら理解できる。
一方で懸念されるのは、コーヒー愛好家であっても過労やストレス、肝機能低下で消化機能が落ちるとコーヒーを美味しく感じなくなる、という「通説」だ。風邪を引いた時にコーヒーを飲みたくなくなるように、体調が良くないと美味しく感じられず、より爽快さを求めて紅茶を飲みたくなるのだという。
日本将棋連盟の羽生善治会長は七冠在位当時、体力的にキツイと振り返っていた。常に将棋を楽しんでいるように見える藤井七冠でも、1年の4分の1を対局と関連行事に費やし、全国行脚していれば、心身を休めるにも限りがあるだろう。藤井七冠のアイスコーヒー封印が、体調不調によるものでなければいいのだが…。
(那須優子)