8月14日の午前10時過ぎ、自民党の岸田文雄首相が9月の自民党総裁選に立候補しない意向を政権幹部に伝えたことがテレビ画面のテロップに表示された。
速報が流れるとお盆休み中の日本中が途端にザワつき、新総裁についての推測や岸田首相への労いなど、この「不出馬」に関連するワードが飛び交った。
一方で、同時刻にトレンドで1位を獲得していたのは「特攻資料館」という、終戦記念日の前日とはいえ、普段ならそこまで注目されない言葉。このまさかの注目ワードのキッカケは、パリ五輪から帰国した卓球女子代表の早田ひなだった。北九州市出身の早田が13日の帰国会見で「九州で行きたい場所がある」として挙げた2つのうち、1つがこの「特攻資料館」だったのだ。
いわく「生きていること、卓球ができているのは当たり前じゃないのを感じたい」と、まだパリから帰国したばかりの24歳のアスリートから出た言葉とは思えないとして、一躍トレンド入りしたというわけだ。スポーツライターが語る。
「彼女が挙げた『特攻資料館』の正式名称は『知覧特攻平和会館』ですが、鹿児島県の南九州市にあります。戦争で命を散らした特攻隊員の遺品や遺影などが飾られた、日本人なら一度は訪れてほしい場所で、特攻隊員の遺書を読みながら涙が止まらず立ち尽くす人がいます。そうした場所にメダリストで人気アスリートの早田が興味を持っていることに、特に昭和世代からは『今の政治家には絶対にない気持ちを持っている』など、感動の声があふれました。また、終戦記念日を意識したこのような発言ができる彼女の発信力や人間力に、同世代の若者たちからも『尊敬できる』といった称賛が集まっていますね」
13日の「報道ステーション」(テレビ朝日系)では、第二次世界大戦で戦火に散った戦争オリンピアンの特集を放送していた。まさに「もう一度五輪の舞台に立ちたい」と願っていた、早田と同年代の20代のアスリートたちばかりだった。ただし放送は帰国会見の後だけに、早田が同番組を見て語ったわけでないことは確かだ。
「ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナ…パリ五輪を経験したアスリートはそうした現在戦争中の国の状況を耳にする機会が私たち以上に多いでしょう。そうしたことも気持ちに影響を与えている可能性は高い。あくまで憶測ですが…」(前出・スポーツライター)
メダリストたちは13日に総理大臣官邸を表敬訪問したばかりだが、早田から拡散された意外なトレンドワードと岸田首相のまさかの不出馬速報とが重なり、SNS上では「もう早田ひな総理でエエやん」と、冗談のような本気のような投稿が複数あった。
選手たち全員が余所行きがちになる帰国会見で、多くの世代に何かを気づかせる発信ができる彼女の人間力の高さが、人々の心に刺さったのは間違いない。
(北山陽向)