東京ドームでの試合終盤、スタンドは異様な空気に包まれた。
それは8月13日の巨人×阪神戦でのこと。阪神の3点リードで迎えた8回表、巨人は伊藤優輔に代わり、平内龍太をマウンドに送った。場内に「平内」がコールされると、阪神ファンからは地響きのような大ブーイングが巻き起こったのだ。
その後も平内が1球投げるたびに怒号が響くなど、しばらくの間、緊迫感のある展開が続いた。もちろん怒号が上がるのには、れっきとした理由がある。
7月31日の甲子園での阪神戦で、平内は森下翔太の顔面付近に2球続けてブラッシュボールを投じた。思わず倒れ込んだ森下は平内をにらみつけたが、平内は悪びれる様子もなく応戦。さらに2ボールからの3球目に体付近にスライダーを投じてストライクを取った際にも不敵な笑みを浮かべ、阪神ファンを煽りまくったのだ。
これには岡田彰布監督もアキレ返るしかない。試合後には「情けないのう。伝統の一戦にならんよ、はっきり言うて」と怒り心頭だった。
それから再び平内との対戦。大ブーイングはいわば阪神ファンの意趣返しと言えるが、平内は8回と9回、7人の打者を1安打に抑え、動じることはなかった。
神戸国際大付属高校から亜細亜大学を経て、2020年にドラフト1位で巨人に入団した平内は、とにかく真っ直ぐで負けず嫌いの塊のような性格。神戸国際大付属時代は、練習で手を抜くチームメイトに向かって「なんやねん、あいつ!」と食ってかかったこともあったと、恩師の青木尚龍監督が語っている。
阪神の森下より2歳上ながら、東都時代はライバル同士だったこともあり、ついつい感情を露わにキツい攻めをしたのかもしれない。
「巨人軍は常に紳士たれ」は、読売ジャイアンツの創業者である正力松太郎氏の遺訓のひとつだが、平内はこれをどう解釈しているのだろうか。
(ケン高田)