Jリーグ夏の移籍期間(8月21日まで)で「主役」の座を奪ったのは、資金潤沢な町田ゼルビアだ。
欧州リーグを主戦場にしていた日本代表のFW相馬勇紀とDF中山雄太を口説き落とし、初優勝に向けてライバルたちが真っ青の強力な補強を成功させた。
一方、降格争いのただ中にあるクラブは生き残りをかけて大事な夏の補強期間になるのだが、異例の〝草刈り場〟になったのが第27節の時点で20チーム中19位のサガン鳥栖だ。
2012年シーズンからJ1に昇格すると、それからは降格することなく、12年と14年には最高順位5位を記録。また、10年南アフリカW杯で優勝したスペイン代表のスーパースター、FWフェルナンド・トーレスが在籍した黄金期があった。
そんなJ1常連クラブが最大のピンチを迎えている。MF菊池泰智→名古屋グランパス、MF長沼洋一→浦和レッズ、MF手塚康平→柏レイソル、FW横山歩夢→バーミンガム・シティFC(イングランド)、そして20日にはMF河原創→川崎フロンターレと、主力選手が次々と引き抜かれて移籍してしまったのだ。
「さすがに河原で打ち止めだとは思いますが、一方で鳥栖が獲得したのは、名古屋グランパスから久保藤次郎のみです(8月19日現在)。降格危機の中、特に中盤は相当苦しい台所事情で戦わなければならなくなりました」(サッカーライター)
さらにサポーターを不安にさせているのが、監督人事の混迷ぶりだ。鳥栖は7月12日にファン・サポーター、スポンサーに向けて、以下のような声明を発表した。
〈クラブとしては川井監督体制のもと、現実にしっかりと向き合い前を向いてこれからも走り続けていきます。サガン鳥栖の伝統を引き継ぎながら、より進化したサガン鳥栖をこれからも皆様と共に創り上げていきたいと考えております〉
ところが、である。続投宣言により一致団結して残留争いに挑むのかと思いきや、わずか1カ月ほどで、成績不振を理由に川井健太監督を解任したのだ。前出のサッカーライターは首を傾げる。
「クラブの声明の中には『チーム強化のための選手補強も行っております』とあるのですが、相次ぐ引き抜き移籍に、サポーターの心境は『クラブ声明はデタラメ』『本当にJ1に残留する気があるのか』と、フロントへの不信感は募るばかり。最下位のコンサドーレ札幌は大逆転の残留に向けて、なりふり構わずに6人の大型補強を敢行しました(20日に7人目の補強を発表)。そして8月16日には〝裏天王山〟の直接対決が行われ、新戦力が活躍した札幌が5-3で打ち合いを制し、残留に望みをつなげています」
この大事な一戦では守備崩壊に加えて、鳥栖はさらなる悲劇に見舞われた。
開始早々、チームトップの12ゴール(リーグ4位)を決めているエースFWマルセロ・ヒアンが足を負傷。担架で運ばれてピッチをあとにする〝痛すぎる〟アクシデントが起きたのだ。
あからさまなチーム崩壊寸前の危機に、サポーターの断末魔はフロントまで届いているのか。それとも、耳を塞いでしまっただろうか…。
(風吹啓太)