人間だけでなく多くの動物は就寝中、夢を見ていると言われる。目が覚めた際に覚えている、いないは別として、夢に登場する人物やストーリー等、ハチャメチャなものが多く、思わず笑ってしまうこともしばしば。これは短期記憶と長期記憶とが混ざり合っているから…などと諸説あるものの、そのメカニズムはよくわかっていない。
そして夢の中には、よく動物が地震などの天災を予知できる能力と同様に、未来に起きる出来事を体験する「予知夢」が存在すると言わてきた。
予知夢には、夢で見たことと全く正反対のことが起こる「逆夢」、特定の数字や色など象徴的なものが出てくる「象徴夢」、さらには夢に登場した人物から未来に関する警告などを受ける「霊夢」などがある。よく言われる「亡くなった人が夢枕に立つ」といった現象はこれにあたるのではないか、と思われてきた。
そんな予知夢のメカニズムに迫るべく、ミシガン大学のカムラン・ディバ博士らを中心としたアメリカの研究チームが、睡眠中のラットの特定の神経細胞(ニューロン)の動きを分析。その研究結果が、今年5月8日付の科学雑誌「Nature」に掲載されている。
研究チームは、眠っているラットの脳を覗き込むことに成功。すると特定のニューロンが直近に起こった経験の記憶を残そうとしながら、同時に新しい経験の記憶調整を行っていることを突き止めたのである。
研究チームはまず最初に、両端におやつを置いたレールにラットを乗せて何度も往復させ、脳内にある海馬の神経細胞がどう動くかを観察。ラットがレールを移動中、神経細胞が最も活発に動く場所を推定し、次に睡眠中の神経細胞の動きを観察した。
さらに睡眠中のラットの海馬で発生する「リップル波」と呼ばれる脳波の神経活動パターンを追跡調査したところ、新しい記憶を定着させる役割があることがわかった。
つまり、このニューロンの働きにより、新しい環境を経験して作られた空間の「表象」(知覚したイメージを記憶に保ち、それが心のうちに表れる作用)が起き、数時間の睡眠でも安定してこれを保つことができる。そしてその記憶の定着が、予知夢を作り出すきっかけになっている可能性がある、というのだ。
簡単に言えば、テレビや映画、あるいは動画や写真などをチラッと見ただけで、それが記憶として定着すれば、それをベースに脳のニューロンが予知夢を生み出し、見たような錯覚を作り出す、ということだろう。
時おり、夢に現れた数字の通りに馬券を買ったら万馬券になった、といった話を耳にする。これもどこかで見たり聞いたりした数字が、ニューロンの働きによって定着しただけなのか…。
夢のメカニズムが完全解明される日は、まだ先になろう。
(ジョン・ドゥ)