「プロテニス選手としての全ての活動禁止処分は、即時実行されるものとする。つまり、この選手のテニス協会主幹大会への参加、いかなるトーナメント、イベントへの参加も禁止する」
これは2017年5月16日、テニスの不正監視団体「テニス・インテグリティ・ユニット(TIU)」が発表した声明であり、日本テニス界に激震が走った。なぜなら、TIUが名指ししたのが、かつて錦織圭と日本の旗を背負い、ダブルスを組んだことがある三橋淳だったからだ。
三橋は駿台甲府高校では2005年ジュニアデビス杯U-16大会に、錦織らと日本代表として出場。2007年にプロ転向し、2008年には日本ランク4位として活躍していた。
ところが2015年11月に南アフリカで開催されたツアー下部大会「IFTフューチャーズ」で自身がコーチを務めた選手を通じ、他の選手にシングルスの場合は2000ドル(約22万円)、ダブルスは600ドル(約6万6000円)で負けるよう、八百長をもちかけたというのである。
TIUによれば、三橋は同年12月にも、ナイジェリアで別の選手に八百長をもちかけていたことが発覚。さらには八百長事件だけにとどまらず、2015年10月から11月までテニスの公式戦で、76度も賭博行為を行っていたことが、調査により明らかになった。
調査後、TIUは再三にわたって三橋に対し、話し合いの場を持つよう要求する。ところが三橋は2015年を最後に日本協会の選手登録を更新していなかったこともあり、事情聴取を拒否。通常、TIUが選手に対して処分を科す場合、必ず選手に弁明の機会を与えているが、三橋はそれを無視したことで、弁明を放棄したとみなされた。過去にあまり例がない「永久追放」という厳しい処罰を受けることになったのである。
TIUが日本人選手を処分したのは、これが初めてのこと。発表の翌日、イタリア国際オープンに参加中だった錦織は、
「世界でともに戦ってきた。彼も悪いやつではないし、すごく情熱があって純粋。騙されやすいんだと思う」
そう記者会見で語ったものの、相手をおもんばかるようなこの発言が波紋を広げることになる。
それもそうだろう。子供ならともかく、三橋は27歳の立派な大人。いかに「純粋で騙されやすい」性格だったとしても、八百長ばかりか賭博行為を76度も行っていたとなれば、常習性は極めて高い。しかも、事情聴取にすら応じていない。それを「騙されやすい」という言葉だけで片付けていいのか、との声が上がるのは当然のことだった。
実は錦織が出場するようなトップレベルの大会は別だが、最下部に位置するフューチャーズトーナメントでは初戦で敗退した場合、賞金は100ドル程度。そうしたことから、八百長や賭博の温床になりやすい、との指摘はあったが…。
全日本トップクラスの実力の持ち主と言われた三橋の追放劇。それはプロテニス界の厳しい現状を浮き彫りにした事件でもあった。
(山川敦司)