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「王座戦」初防衛に王手をかけた「鬼神・藤井聡太」の勝利の方程式は「パイナップル・キノコ抜き・室温20度」

 いくら漫画でも、こんな展開は描けない。将棋の第72期王座戦5番勝負第2局が9月18日、名古屋市の名古屋マリオットアソシアホテルで行われ、午前9時の対局開始からわずか30分で76手まで進む「AI超速将棋」を藤井聡太七冠が制して2連勝。王座戦初防衛に王手をかけた。

 視聴者が驚いたのは昼食前、藤井七冠の銀を取りにきた永瀬拓矢九段の桂打ちの猛攻に、あっさりと銀を差し出した場面だろう。藤井七冠は51分の長考の末、81手目に銀取りを「手抜く(相手の手に対応せず、別の手を指す」、先手4六の香打ちからまるで鬼神のような猛攻に転じる。藤井八冠はこの時、

「ちょっと銀を取られてしまうので…」

 と形勢不利を意識したそうだが、長考中に戦法修正をしていたのだろう。研究家で知られる永瀬九段は対局後、

「ひとつひとつの形が特殊。形が分からなかった。先手4六香(81手目)とされてうまく対応できず、途中から少しずつ差がついた」

 やはり81手目の藤井の意表をついた「手抜き」を振り返り、ため息をついたのだった。

 勝負はゴリゴリだったものの、そこは研究仲間でもある2人。前日の対局場検分では、藤井七冠が笑い出す場面が見られた。

 8大タイトル戦ともなると数名の立会人が同席し、さらに将棋連盟関係者、新聞記者が対局場に入るため、対局場は「密」になる。人口密度と熱気で室温が変動するのに対し、藤井七冠は愛用する腕時計で室温を確認。細かい室温調整を依頼するという。今までの対局を見る限り、藤井七冠は季節を問わず「20度」と指定することが多いようだ。

 ところが今回の対局場検分では、部屋に入った藤井七冠が「エアコンってどういう設定になっていますか」と室温を確認する場面があった。関係者が「16度になっています」と答えると、あまりに涼しすぎたのだろう。「いや、低すぎ!」と苦笑い。対局時の設定温度として、

「20度くらいにしていただいて、もし暑かったら記録の方に(エアコン設定の調整を)お願いしたいと思います」

 いつもの勝利の方程式通りの20度を指定した。さらに勝負メシ、勝負おやつは「名古屋コーチンの天津飯、香港点心師の点心(餃子2種と焼売など)キノコ抜き」「(見た目はメロンパンに似た)パイナップルパンと中国茶」をチョイスした。

 キノコは藤井七冠の数少ない苦手な食材である一方、パイナップルは過去の対局でもパフェやパイン味のわらび餅を指名するなど、「好物」として挙げている。

 9月8日に完成した東京の将棋会館と、大阪の将棋会館のクラウドファンドではシュールな「パイナップル星人」を描き、返礼品の「パイナップル星人パーカー」だけで1億6000万円の寄付金を集めたほどだ。

 パイナップルは「味に当たりはずれがない」のがお気に入りの理由だが、いつもの室温といつものパイナップル、そして雑念にとらわれることなく盤上に集中できたことが、永瀬軍曹に2連勝できた勝因なのだろう。

(那須優子)

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