これぞ「サプライズ」である。日本ハム・鍵谷陽平投手の引退セレモニーに登場したのは、レッドソックス傘下3Aの上沢直之だった。
上沢は栗山英樹CBOに召喚され、スペシャルゲストとしてグラウンドに現れた。鍵谷に花束を渡して熱い抱擁を交わすと、スタンドからは割れんばかりの拍手と声援が送られた。
主役はあくまでも引退する鍵谷だったが、どこかやりきった感を見せていたのはむしろ上沢の方で、スタンドのファンからは「いよいよ復帰か」「上沢式ポスティングの時代だな」などという声が上がった。
上沢は2022年の契約交渉の場で、次のオフにポスティングシステムを利用したメジャー挑戦を直訴。契約金2万5000ドル、年俸22万5000ドルでレイズとマイナー契約を結んだ。その後、レッドソックスに金銭トレードで移籍し、メジャー昇格を果たしたが、2試合で4回を投げて2安打1失点、防御率2.25の成績でマイナー降格。シーズン終了を待たずして、帰国していた。
日本ハムのファンとって気になるのは、上沢のチーム復帰だろう。今季の先発投手陣は伊藤大海が13勝しているが、同じ右腕の金村尚真は6勝止まり。日本ハム在籍中の9年間で2度の二桁勝利を記録している上沢が戻ってくれば、投手戦力に厚みが出るのは確実で、ソフトバンクに肉薄することができよう。
事実、ファンの反応はかなり好意的だ。アメリカで成績を残すことはできなかったが、本場の野球を経験したことで、ひと皮剥けた投球を期待する声は大きい。
振り返れば日本ハムは過去、ポスティングでレンジャーズに移籍し、その後にソフトバンクに入団した有原航平の悪例がヒンシュクを買っている。しかし上沢が戻ってきたならば、ちょっとした短期野球留学のようなものであり、むしろひと皮剥けた姿を期待したくなる。球団には少額ながらポスティング費用も入っている。両者ウインウインということになろう。
通常、チームを去った選手が好意的に迎えられるケースは少ないが、鍵谷の引退セレモニーでの割れんばかりの拍手を見るに、ファンが上沢の復帰を望んでいるのは明らかだ。
来春には再び背番号15をつけた上沢が、エスコンフィールドのマウンドで躍動しているかもしれない。
(ケン高田)