菅義偉前総理が自民党の副総裁に就くことについて、安倍晋三シンパからは猛反発が起きている。石破茂総裁が安倍氏の「天敵」であったことはよく知られている。その石破氏の総裁選出に菅氏が影響力を行使しただけでなく、石破氏から請われて(釣られて?)、それまで麻生太郎氏が務めていた副総裁のポストを受けたからだ。
菅氏は総裁選で、小泉進次郎氏を支援していた。決選投票では多くの小泉支持派が石破氏を支持したとみられている。菅氏は自身の投票行動を明らかにしていないが、小泉氏が出馬しなかった場合、石破氏を推す構えだった。事実、安倍氏の三回忌翌日の7月1日に、菅氏は石破氏と会食している。
自民党総裁選があった9月27日、奇しくも2年前のこの日に、奈良市内で暗殺された安倍氏の国葬が東京・千代田区の日本武道館で営まれた。官房長官として安倍氏に仕えた菅氏は弔辞を読み上げている。
「総理大臣官邸で共に過ごし、あらゆる苦楽を共にした7年8カ月。私は本当に幸せでした。私だけではなく、すべてのスタッフたちがあの厳しい日々の中で、明るく生き生きと働いていたことを思い起こします。何度でも申し上げます。安倍総理、あなたは我が国日本にとっての真のリーダーでした」
これが「感動的」と称賛され、異例の拍手が起きた。
安倍氏が総裁選で何度も戦った石破氏を「敵」として捉えていたことを、菅氏は熟知しているはずだ。石破氏は安倍政権の時に起きた森友学園問題をめぐる財務省の決裁文書改ざんに関して、
「国民の納得のために必要なことであれば、やらなければいけない」
と述べ、再調査が必要との認識を示している。
「安倍さんの遺志を継ぐなら、選択肢に石破さんが入っていないことは、菅さんもよくわかっているはず。結局、菅さんは安倍さんを慕っていたのではなく、権力を慕っていたということなのでしょう」
安倍氏の元側近は、吐き捨てるようにそう語るのだった。
(奈良原徹/政治ジャーナリスト)