イスラエルと敵対するイスラム教シーア派の武装組織ヒズボラの戦闘員らが使用する、ポケベル型の通信端末が遠隔操作により一斉爆発。32人が死亡し、数千人が負傷した事件。まさにスパイ映画さながらの緻密かつ高度な軍事作戦を行ったのは〝世界最恐〟と呼ばれるイスラエルの秘密情報部隊モサド(イスラエル諜報特務庁)だと言われる。国際ジャーナリストの山田敏弘氏が、同機関の戦慄実態を詳細に明かす。
今回の一斉爆発は、モサドが実行した作戦であることは明らかです。対立するアラブ諸国に囲まれるイスラエルは、自国の存続のため、敵国を殲滅できる戦闘力とインテリジェンスを兼ね備えた情報諜報機関が欠かせません。現在、モサドには数千人のエージェントが在籍し、米国CIAとも密接に連携。世界各国で諜報活動を行っています。
モサドは、ヒズボラのメンバーが自分たちの位置情報を割り出されることを避けるために、スマホではなくポケベル型の通信端末で連絡を取り合っていること、彼らが使用する武器や備品などの入手ルートについても内部の協力者を通じて把握していました。ペーパーカンパニーを設立するなどして、起爆装置を仕込んだポケベル型の通信端末、約5000台を製造し、ヒズボラに納入することに成功した。そしてイスラエル国防軍のITやAI、サイバーセキュリティーを専門とする超精鋭集団8200部隊とも協力し、遠隔操作による作戦を実行したのです。
今回はヒズボラを標的にしましたが、パレスチナのイスラム組織ハマスやイランに対する強烈なメッセージでもあります。下っ端の戦闘員を1人1人、殲滅していくよりも、指揮系統を担う上層部をピンポイントで暗殺する方が組織に与えるダメージは大きい。今年7月には、ハマスの最高指導者イスマイル・ハニヤ氏が滞在する施設に爆破装置を仕掛け、遠隔操作で暗殺しました。しかし今回は、あえてそれをやらずに一斉爆発という手段を選んだ。イスラエルの戦闘力とインテリジェンスの高さを敵対する国や武装組織に誇示したのです。
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まさに最新のテクノロジーと人的資源を全投入したテロ行為だ。長年続くユダヤ人とアラブ人の対立の中で、自分たちが存続するために培われてきたイスラエルの狡猾さと冷酷さを象徴する作戦だったといえるだろう。
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イスラエルは90年代後半から、携帯電話に爆弾を仕掛けて敵対する相手を殺害するという作戦を実行してきました。09年から10年にかけては、イラン国内の核燃料施設の制御システムをハッキングし、ウラン濃縮用の遠心分離機を爆破して、工場を大規模に破壊。敵対する周辺諸国から国民を守るため、モサドや国防軍による軍事作戦は多岐にわたり、より高度化し続けているのです。
世界平和度指数155位というイスラエルの国防活動については、日本が見習うべき部分もあります。
中国共産党のサイバー攻撃力は、米国も注視し警戒するなど、世界的な脅威になっています。つまり中国がその気になれば、日本に対して、今回の一斉爆発のような攻撃を仕掛けられるということです。そのような状況にあることを日本人は理解しておくべきです。イスラエルによる一斉爆発は、決して対岸の火事ではないのです。