名越 中野さんは、同志社大学から国家公務員Ⅰ種試験に合格して労働省(現厚生労働省)に入省しました。キャリア官僚を多く輩出している大学ですか。
中野 いえ、当時も今も非常に珍しいと思います。周りは東京大学法学部卒が多かったです。
名越 厚労省は在籍していた頃と現在とでは違いますか。
中野 厚労省は国民生活に関わる役所だけに不祥事が起きれば激しく叩かれます。私が在籍していた頃は岡光事件がありました。その後、年金不祥事などがあり、毎日マスコミから「年金の不祥事はすべて厚生労働省が悪い」と叩かれて、親が社会保険庁で働いている家庭の子供がイジメにあっているとの話も聞きました。
名越 今だったら叩きすぎだとして、逆に問題視されそうですね。
中野 「税金で食っているんだから何を言われても我慢」という時代です。それに比べると、今の官僚が置かれた環境は、穏やかだと思います。
名越 中野さんは厚労省を辞めた後、大学で教職に就かれましたけど、官僚が退職後、大学教授のポストに就くことは多いんですか。
中野 今回、改めて調べてみましたが、客員教授、特任教授など正規教員ではないポストも含めて、数が多くてビックリしました。
名越 最低でも修士の学位を持っていないと難しいですよね。
中野 事務次官や長官経験者は簡単に見つかるかもしれませんが、私は公募だったので、なかなか仕事が決まらなくて、100校以上落ちました。「1勝100敗! あるキャリア官僚の転職記」(光文社)という本を書いたくらいです(笑)。
名越 官僚の天下りは規制されていますが、現状はどうなんでしょうか。
中野 基本は再就職と同じなので能力次第の個々人化が進んでいます。ただ、財務省や経済産業省など経済官庁の官僚は、民間企業の社外取締役の役職に就けるチャンスが高い。逆に厚労省、農水省などの官僚は大変だと思います。
名越 同じキャリア官僚でも差がありますね。
中野 かつてのように50代なかばで辞めても、天下り先はほぼありません。現在はとにかく60歳まで頑張るのが一般的です。52、53歳までは本省にポストがあるので処遇できますが、その先はポストがないので独立行政法人などに出向していきます。
名越 そこで役人人生は終わりですか。
中野 いえ、独立行政法人で理事などのポストを4年ぐらい務めた後、本省に戻ります。そして実質的にあまり意味のない役職で60歳近くまで働いて、退職金をもらったらそこで終わり。その後、年金がもらえる65歳まで食い繫ぐパターンが恐らく一番多いと思います。
名越 キャリア官僚の老後も楽ではないですね。
中野 老後は個人の力量次第と変化してきています。今は役所が再就職先を斡旋することは許されませんので、当然のこととも言えますが。
ゲスト:中野雅至(なかの・まさし)神戸学院大学現代社会学部教授。1964年、奈良県大和郡山市生まれ。同志社大学文学部卒。新潟大学大学院現代社会文化研究科(博士後期課程)修了。奈良県大和郡山市役所勤務ののち、旧労働省に入省(国家公務員Ⅰ種試験行政職)。04年、公募により兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科助教授に就任後、教授に。14年より現職。
聞き手:名越健郎(なごし・けんろう)拓殖大学特任教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社。モスクワ支局長、ワシントン支局長、外信部長などを経て退職。拓殖大学海外事情研究所教授を経て現職。ロシアに精通し、ロシア政治ウオッチャーとして活躍する。著書に「秘密資金の戦後政党史」(新潮選書)、「独裁者プーチン」(文春新書)など。