これは大谷流ハロウィン「トリック・オア・トリート」なのか。
メッツとのリーグ優勝決定戦第3戦の8回、飛距離125メートル、打球速度186キロの特大3ランを放った大谷翔平は、この第3戦を終えた段階で、ポストシーズンの得点圏打率を脅威の8割3分3厘、2本塁打、8打点まで伸ばしていた。一方で走者なしの場面では、22打数無安打だ(第4戦の第1打席で先頭打者本塁打を放ち、無安打から脱出)。
なぜ走者がいるかいないかで、ここまで打撃成績が極端にブレるのか。歴代野球漫画よりも漫画っぽい「漫画超え」大谷ならではの「仮説」を立ててみた。
走者がいない打席では徹底的に相手投手陣の研究に徹し、走者を置いた場面に生かすデータ収集と愛犬デコピンの命名由来「デコイ(罠)」に充てているのではないか――。
第3戦を振り返ると、第1打席こそ初球を強振する一塁ゴロで終わったものの、第2打席はフルカウントから、手術した右肘の近くを通るインコース高めのストレートを見送って、四球で出塁。観客と視聴者は一瞬ヒヤリとしただろうが、大谷は微動だにしなかった。
第3打席はセンター最深部まで飛ばした本塁打性の強打。第4打席ではカットボールとスプリットをそれぞれ自分の足と股間近くに当てる、実に痛そうな自打球の末に、カットボールで空振り三振に終わった。
ところが次の打席、第4打席で空振りしたのと同じコースにきたカットボールをすくい上げ、右翼2階席まで運んだ。
実は第2打席の四球には、6年越しの「伏線」があった。2018年シーズン、エンゼルス×ヤンキース戦に登板した先発セベリーノ(当時ヤンキース所属、現在はメッツ)は「大谷は内角に弱い」という下馬評を参考に投球を組み立てていたが、完璧な内角低め156キロのストレートをライナーで右翼席に運ばれた。セベリーノは試合後に、こうコメントした。
「次(の大谷との対戦)はもう内角に投げないよ。彼はいい投手であり、いい打者だ。自分はいいコース、いい球を投げたけれど、打たれてしまった」
内角攻めの封印宣言とともに、大谷を絶賛。そのセベリーノは第3戦前の会見で、
「ダルビッシュが大谷に対しどう攻めたか、見るつもりだ。彼は素晴らしい打者で、慎重に攻めなければいけない。(パドレス戦を参考に)しっかりとプランを立てて、実行できれば大丈夫だろう。過去の試合を見て、大谷の打席での姿を見る」
そう戦略を明かしていた。この会見から大谷とメッツ投手陣の心理戦は始まっていたのだろう。
セベリーノは過去の苦い経験から、内角低めのストライクゾーンには投げられない。他の投手陣も大谷を封じたダルビッシュ有をお手本に、ストライクゾーンを外れる変化球を中心に組み立てることは、テレビ観戦している視聴者にも想像がつく。
大谷は走者のいない場面で「ダルビッシュが投げたコースは苦手」なフリをして相手投手の変化球の落ち方を分析、メッツ・バッテリーに罠を仕掛けて適時打のチャンスが来るのを待っていたとしたら…。
この「漫画超え」仮説の答え合わせの結果は、今後の戦いで判明する。
(那須優子)