ラグビー日本代表が、オールブラックスことニュージーランド代表を横浜市の日産スタジアムに迎えて開催した10月26日のテストマッチは、6万人以上の観衆を集めて「さすがはオールブラックス」と人々を驚かせた。
試合は、新生ジャパンが先制トライを決めるなど、試合序盤こそ観客を沸かせるシーンを何度か演出したが、最終的には64-19で完敗。このところ、明るい話題の少ないラグビー界に元気を注入する結果とはならなかった。
すると10月30日に、元気のないラグビーファンに追い討ちをかけるような発表が、日本ラグビー協会から出されたのだ。
関東や関西などの各リーグの上位大学が大学日本一をかけて争う「全国大学ラグビー選手権」は、ファンにとって年末年始の恒例行事。80年代や90年代のような人気はないものの、それでも年明けの準決勝、決勝は国立競技場を舞台に展開されていた(国立競技場改修時を除く)。
ところが今年度は1月12日の決勝戦を、秩父宮ラグビー場で行うというのだ。スポーツライターが言う。
「これに賛成という意見としては、ラグビー専用競技場である秩父宮の方が見やすい、というもの。しかし多くが抱いたのは、1月2日の準決勝2試合は例年通り国立競技場で開催するのに、決勝戦が最大キャパ6万7000人の国立競技場から、立ち見席を入れてようやく2万2000人程度の秩父宮に『格下げ』されることへの寂しさでした。選手たちのモチベーションや大会の意義を問う声もあり、中には『高校サッカーに国立競技場を取られてしまった』『もうラグビーはダメかもしれない』という悲痛なものまで…」
協会の言い分としては、前後の1月11日と13日に「全国高校サッカー選手権」の準決勝、決勝が行われることによる、芝の管理問題があるというのだ。スポーツライターが続ける。
「確かに芝が荒れやすいラグビー翌日のサッカーは大変ですが、これまでは高校サッカーの決勝前日に大学ラグビー決勝がありました。そんな表向きの言い訳をしなくても…。切実な理由として挙げられるのは、観客動員数でしょう」
昨年、国立競技場で行われた準決勝は1万9745人、決勝の帝京×明治は1万8374人だった。これでは6万人以上入る国立競技場で高い使用料を払うことに、ラグビー協会が二の足を踏む気持ちはわかる。
12月に行われた関東大学ラグビー対抗戦の「早明戦」だけは3万人を超える観衆を集めたが、それでも国立のキャパからすれば半分だ。
実は今回、関西でも問題が起こっているという。大阪で行われていた準々決勝までの開催が、費用と芝問題などで苦戦したことで、まさかの和歌山県と三重県の開催になったのだ。これには関西のラグビーファンが「花園(ラグビー場)も使えないのか」と。
関西スポーツメディア関係者の話を聞こう。
「現在、花園ラグビー場の指定管理者はラグビー関係者ではなく、サッカーJFLのFC大阪。そうした事情から、使いたくても使えない事態が発生することがあるようです。昨年は大阪市内で準々決勝を開催しても、観衆は1万人に届きませんでした。とにかく今回の発表でわかったのは、昔のような集客を期待できない大学ラグビーが隅に追いやられている、ということ」
事情を聞けば、会場格下げもやむなしということか。それでもラグビーW杯日本大会直後に行われた、2019年度の大学ラグビー決勝「明治×早稲田」は国立競技場に5万7345人の大観衆を集めて盛り上がった。
今回の発表を受けて、万が一、決勝が早明戦になろうものなら「秩父宮ではとうてい収容しきれない」と懸念する声がある。しかし、背に腹は代えられない日本ラグビー協会としては、そんな都合のいいマッチアップを期待している場合ではないのだろう。
(高木莉子)