社会

“全世界からタブー視される”国際ニュースに潜む怪人列伝〈異彩を放つ「トランプ応援団」〉

 米大統領選はトランプが勝利したが、選挙戦終盤の熾烈なデッドヒートの中、多数の有名人が参戦した。ハリス陣営をレディ・ガガやテイラー・スウィフト、ビヨンセが応援。対するトランプの応援には、ハルク・ホーガンやメル・ギブソンらが声を上げた。

 ハリス側の応援団に、もともと共和党員で元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーが登場するサプライズはあった。が、やはりトランプ応援団の面々のほうが、ひときわ異彩を放った。

 最も目立ったのが、イーロン・マスクだろう。電子決済サービス「ペイパル」で成功し、宇宙ロケットの「スペースⅩ」、電気自動車「テスラ」などで巨万の富を築き、ツイッターを買収して現在の「Ⅹ」に変更した男である。単なるビジネスマンではなく、ロシアのプーチン大統領を擁護するなど政治的な発言も多い。大統領選ではトランプ陣営に参戦。巨額の選挙資金を提供したうえ、激戦州で主催した集会に参加した有権者の中から1人100万ドル(約1億5000万円)を贈呈する懸賞プログラムを打ち出し、是非をめぐって大きな論争にもなった。

 他にもトランプ陣営で注目された人物としては、名門ケネディ家出身のロバート・ケネディ・ジュニアがいる。父親がロバート・ケネディ元司法長官、伯父がジョン・F・ケネディ元大統領という毛並みの良さで知られる政治家だが、環境問題に深く関与しているうちに、巨大企業がすべての悪かのような主張を展開。果てには、全米でも屈指の陰謀論者に変貌した。

 国際政治でも〝米国がほとんどの問題の元凶〟と主張。中東の紛争はもちろん、ウクライナ侵攻も、米国がロシアを陥れようとしたもので、22年にロシアが全面侵攻するまで、ウクライナ東部の紛争の犠牲者は全員ロシア人だったとのトンデモ論を展開している。

 大統領選に関しても、ブッシュが勝利した04年は、共和党が選挙システムをハッキングして不正に仕組んだと主張。トンデモ論はまだ続き、新型コロナ問題でワクチン陰謀論を説き、反対運動を主導した。もっとも、彼の反ワクチンは最近始まったものではなく、以前から「小児ワクチンが自閉症の原因だ」などと科学的根拠のない主張を繰り返す筋金入りではあった。

 ケネディ・ジュニアは民主党の政治家だったが、そのトンデモな陰謀論は「ディープステート(裏の権力者集団)が米国を支配している」と言うトランプ陣営と共鳴する。今回の大統領選でケネディ・ジュニアは当初は民主党から出馬を目指すが、その怪主張からケネディ一族が猛反発。民主党からの出馬を諦めて無所属での出馬に変更するも、挫折して自ら出馬を断念して最終的にトランプ支持を打ち出した。その見返りとして、トランプが勝利したあかつきには、公衆衛生政策担当のホワイトハウス特別顧問に就任することが検討されていると米国の有力メディアで報じられた。米国政府が反ワクチン政策を進めることになりかねない危険な見返りである。

 イーロン・マスクやロバート・ケネディ・ジュニアは日本でも知名度がある。だが、さほど知られていない存在であっても、大統領選に影響を与えた、いわゆる、インフルエンサーの中に、前述のようなトンデモ陰謀論を展開する人々がいる。こうしたインフルエンサーの活動は、間違いなくトランプ陣営の票の積み上げに貢献した。

 その代表的な人物を、投票日直前の11月4日付「ワシントン・ポスト」紙が採り上げていた。それは極端な添加物拒否などの健康問題系インフルエンサーのアレックス・クラークだ。

 弱冠31歳のクラークは少女時代、将来は大手ファッション誌で働くことを志望していた。が、高校卒業後にケンタッキー州のラジオ局でアルバイトをしたことをきっかけに、番組キャスターに抜擢。その流れで19年に親トランプ派の若者グループ「ターニングポイントUSA」が制作したポッドキャスト番組「ポップリティクス」の司会者に就任した。この番組は有名人のゴシップと保守思想の解説を組み合わせる独特の内容で、クラークはカワイイ系好きの保守派の若者という新規のファンを集め、彼らを「キュート保守派」と呼んだ。

 翌20年、クラークは2つ目のポッドキャスト番組「スピルオーバー」を開始。この年は新型コロナのパンデミックにあたるが、それをきっかけにクラークは健康問題について極端な陰謀論を語るようになる。最初は社会活動の自粛やワクチン強制に対する反発だったが、この反ワクチンへの扇動が一部の保守層に人気を博す。メディア業界でも広く知られるようになった。

 クラークは医学の専門家ではない。が、反ワクチンを契機に、種子油やクエン酸、あるいは食品添加物など化学物質が現代人の健康を害しているという極端な自然回帰派的な主張へと発展していく。これが健康問題に興味を持つ多くの若い女性に支持される。クラークにしてみれば、本心から芽生えた問題意識だったのだろう。そこから大企業や政府機関の陰謀というケネディ・ジュニアと似たトンデモ論に傾倒していく。

 従来、自然回帰派は左派リベラルの系譜にあり、どちらかというと民主党支持層に多かった。が、クラークはそうした層からの人気を得て、もともと民主党支持の女性を保守派に呼び込み、トランプ支持に転じさせる原動力になった。

 クラークは「ターニングポイントUSA」主催の女性集会の中心的人物として、同性婚反対、反フェミニズム、避妊反対、妊娠中絶反対などを主張。同時にトランプ陣営のキャンペーン「MAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)運動」と連携して「MAHA(メイク・アメリカ・ヘルシー・アゲイン)運動」を主導するに至り、24年9月には健康問題を中心とするポッドキャスト「カルチャー薬局」を開始し、ますます言論活動を強化している。番組では様々なゲストを呼んでいるが、その多くは既存の医学・医療を否定する民間療法の推進者だ。外見上は華やかな印象を与えるクラークだが、完全に健康問題系トンデモ陰謀論を牽引して、政治的影響力まで持つ女性となっているのだ。

黒井文太郎(くろい・ぶんたろう)1963年福島県生まれ。大学卒業後、講談社、月刊「軍事研究」特約記者、「ワールドインテリジェンス」編集長を経て軍事ジャーナリストに。近著は「工作・謀略の国際政治」(ワニブックス)

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