「エビでタイを釣る」とはよく言われることだが、エビの投資話を持ち掛け、6年間でなんと600億円もの大金を庶民から巻き上げた「伝説の詐欺師」がいる。「オーシャンワールドファーム」を率いる黒岩勇会長だった。
同社は2001年に設立。「フィリピンに東京ドーム450個分の養殖場があり、そこでブラックタイガーを養殖している」とのフレコミで「1口10万円投資すれば10日ごとに配当が入り、1年で元本の2倍になる」などと嘘八百を並べたて、出資者から金をかき集めた。
実はこの黒岩会長、それまでにも大規模詐欺を仕掛け、危なくなると会社を倒産させて消息を絶つ、という手口を繰り返してきた、その道ではカリスマと呼ばれた人物なのだった。当時を知る元社会部記者が言う。
「1980年代に設立した健康食品会社では3000人から300億円を集め、会社を倒産させてトンズラ。1999年にも同様の手口で、2万人から400億円を募っています。結局は『幹部が資産を持ち逃げした』と書いた文書1枚を出資者に送りつけた後、身を隠しています。両事件ともに会員が訴訟を起こしたものの、バタバタしている隙に偽造パスポートを使って海外に高跳びし、刑事事件を逃れています」
そんな黒岩会長が次に目を付けたのが「エビでタイを釣る」方法だったというわけで、養殖事業とマルチ商法を合体。加えて投資ファンドを抱き合わせるシステムを構築する。要は出資者から金を集めるだけでなく、「匿名組合」なるものに加入して組合員を増やせば「より多くの利益が得られますよ」とワナに誘い込んだのである。この複合型マルチ商法で、組織は急速に拡大することになった。
むろん、全てはデタラメであり、ほどなくして出資者への配当金が滞り始める。すると「税務署の通達」を理由に配当を中止したばかりか、返金・解約の申し出が相次ぐと、「台風の直撃で養殖場を全滅。アメリカに投資した全資金が凍結され、民事再生適用を申請したい」として経営破綻を宣言するというお馴染みのやり方で、出資者の前から姿を消したのである。
いや、しかしそんな悪事をいつまでも放置されていいはずはない。2008年1月になって、警察がフィリピンに捜査員を派遣。養殖場はあるものの、肝心のエビが1匹もいないことが判明し、関連先二十数カ所に家宅捜査が入ることに。
黒岩会長は偽造パスポートを用いて国外逃亡したとして逮捕され、2008年7月に詐欺容疑で再逮捕される。翌2009年5月には、この「詐欺のカリスマ」に、懲役14年の判決が言い渡されたのだった。
(丑嶋一平)