枕や布団、ぬいぐるみ、さらには飼い主のメタボ腹の上に乗った猫が、前足でふみふみすることがある。猫がこのように柔らかいものを前足で踏むのは、くつろいでいる状態にあるからといわれている。
というのも通常、猫は歩いている時に爪を隠す。理由は、音で獲物に悟られないようにするため。お菓子の生地をこねているように見えることから、海外では「ビスケット作り」と呼ばれている。
今年11月、そんな猫の「ふみふみした跡」が、イスラエルのエルサレム旧市街にある城壁の発掘調査中、研究チームによって発見された。
「水差しの土器の破片から見つかった猫の『ふみふみ跡』は3センチ×3センチほどで、おそらくは子猫か、大人でもかなり小さい猫ではないかとされています。分析の結果、この土器の破片はなんと、1200年前の水差しであることが判明した。1200年前といえば、アッバース朝時代(750年~1258年)。これだけ年月が経っていても、爪の跡が鮮明に残っているものは極めて珍しく、考古学研究者は沸き立っているようです」(世界史ジャーナリスト)
通常、陶芸は湿った土を採取し、植物などの残骸や虫の死骸などの不純物を取り除いたあと、質感が一定になるまでよくこねる。そして、こね終わった粘土を壺や器などに成形していく。成形が終わったら、まだ柔らかい状態のまま風通しのいい場所で乾燥させ、低温と高温の2回に分けて焼いていくことになる。つまり、足跡を付けた猫はまだ粘土が乾ききっていない柔らかい状態で「ふみふみした」と考えて間違いなかろう。
1200年前のことゆえ想像の範囲だが、おそらくこの猫は陽だまりに置かれたこの水差しを発見。踏んでみるととても気持ちがよくなったため、そのまま体重をあずけ、爪の跡がくっきり残るほど何度も「ふみふみ」したのではないかと考えられる。
動物学者によれば、この状態の時、猫の脳内では幸せホルモンのドーパミンが大量に放出され、至福を感じているとされる。
(灯倫太郎)