1996年のアトランタ五輪「マイアミの奇跡」と呼ばれるブラジル戦で決勝ゴールを決めた伊東輝悦が、昨シーズンいっぱいで現役を退いた。50歳という年齢は三浦知良の影に隠れているが、偉大な記録である。
伊東は最後のシーズンをJ3のアスルクラロ沼津でプレーし、最終節の松本山雅FCとの試合では、後半アディショナルタイムに出場して花道を飾った。その試合の裏側を、中山雅史監督が明らかにした。
前園真聖氏のYouTubeチャンネルに出演した中山監督と伊東が最後の試合を振り返ったのだが、伊東を送り出した時の心境を中山監督は、
「見せ場があってほしいなと思った。その前から故障がちではあったんで、どこまでいけるか。ただ、勝負にはこだわりたい。うまくボールをさばいてくれて、チームの動きを躍動させてくれる、という思いでピッチに送り出した。まあ、時間がちょっと短かったというのはあります」
大ベテランの伊東に花を持たせようと、わずかな時間ながら試合に出したのだと明かした。最後に試合に出られたことに伊東は、
「嬉しかったです」
と感謝の言葉を口にする。するとここで、中山監督がぶっちゃけた。
「今シーズン、天皇杯の予選で(伊東が)出たんですよ。でもその時、ワンタッチもしていないんですよ。ボールに触れられなくて(笑)。で、終わった時に『テルになんとか触らせろよ』ということを(選手に)言ってた」
そのおかげで最後の試合では、伊東はボールに触ることができたのである。その時のことを、伊東は笑って振り返る。
「沼田航征がキックオフで『テルさん、ボール渡しますから』って言ってきて、俺にボールを渡す必要なんかないのに『とりあえず一回、蹴らせておこう』って」
アディショナルタイムに出場という非常に短い時間だったにもかかわらず、ボールに触って花道を飾ることができたのは、中山監督の気遣いゆえだったのである。
(鈴木誠)