それは間違いなく、今キャンプで最長の「ゲリラサイン会」となった。
2月2日はプロ野球がキャンプインして、初めての日曜日。ソフトバンクの春季キャンプには、老若男女のファンが来場した。それぞれがお目当ての選手からサインや写真撮影などのファンサービスを受けていたが、最も人気が高いように見えたのは、今季から新加入した上沢直之だった。
11時20分頃、生目の杜運動公園の多目的グラウンドBで、ランメニューを終えた投手陣を待っていたのは「サインください!」とリクエストするファンの列。ほとんどの選手が数人にサインをして走り去る中で、上沢は選手控え室のプレハブ小屋までの動線約200メートルを、バリケード越しにひとりひとり対応していた。
さすがに日本ハム時代から人気選手だっただけあって、サインはお手のもの。1人あたり5秒弱で手際よく捌いていく。しかし、順にサインをしながら目的地に向かう歩みは牛歩のごとし。と同時に、ファンから渡されたプレゼントがいっぱいだ。見かねた球団スタッフが預かりにいく場面が二度三度と見られた。それにしても、20分経っても30分経っても終わらない。
そんなこんなで最後尾のファンにサインを終えた時には、開始から1時間弱が経過していた。さぞかし疲労困憊かと本人を直撃すると、
「いえいえ、全然平気です」
クールな表情で颯爽とプレハブ小屋に入っていったのだった。その背中を見送って振り返るともうひとり、サインを書き続ける男がいることに気付いた。
リリーフ投手の津森宥紀だ。そういえば、上沢とほぼ同時に「サイン会」をスタートさせていた気が…。
最後の最後まで「もう、あなたで最後!」と言いながら、次に並ぶファンのためにサインを書く手が止まらない。結果、津森は上沢よりも5分ほど長くファンサービス。こちらは疲労困憊の様子で、
「1時間以上、やっていますよね。たぶん、最長記録やと思います。ありがたいことに、プレゼントを持っていた左腕はパンパンです(笑)。途中、球団の人がプレゼントを預かってくれましたが、たぶんトータルでは左肩から左手にかけても足りないくらいだったかと。僭越ながら、世界一のファンサービスを見せられたと思います」
常勝チームで4年連続40試合以上登板を記録したリリーフ右腕。タフネスぶりはマウンド以外でも発揮されたのである。