これほど明暗がハッキリと出た試合は珍しい。
Jリーグ開幕を告げる「FUJIFILM SUPER CUP 2025」は、サンフレッチェ広島がヴィッセル神戸を2-0で破り、10年ぶりのリーグ優勝に向けて好スタートを切った。広島は新戦力のジャーメイン良、田中聡を先発させ、ベストメンバーともいえる主力選手を並べた。
試合は広島が前線から積極的にプレスをかけ、得意のサイド攻撃を仕掛けて主導権を握り、前半12分に右アウトサイド中野就斗からのクロスを、トルガイ・アルスランが頭で合わせて先制する。後半に入って神戸がメンバー交代で流れを変えようとするが、後半25分、右CKから荒木隼人が豪快なヘッドを決める。その後も危なげない試合運びで広島が勝利。点差以上の快勝だった。
昨季は最終戦まで神戸、町田ゼルビアと優勝を争ったものの、過密日程もあって、終盤は1勝4敗と失速し、自ら優勝を手放した感があった広島。それだけに「今年こそ優勝」という気持ちが強い。
ミヒャエル・スキッベ監督になって4シーズン目。選手はどういうサッカーをやるかがわかっている。あとは結果を出すだけだ。得意のサイド攻撃には右に中野、左に昨季全試合に出場してリーグ優秀選手に選ばれた東俊希を置き、3バックの両サイド、左の佐々木翔、右の塩谷司も積極的に攻め上がる。
そんな中、この試合で注目を浴びたのが、ボランチの中島洋太朗だった。今年4月に19歳になる若手は90分のフル出場を果たし、展開力やスルーパスで存在感を見せつけた。スキッベ監督は若手を積極的に使う指揮官。生きのいい若手が出てきた。
ただ、気になるポジションもある。それは3バックで今年36歳を迎える佐々木、12月に37歳になる塩谷。9月にはACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)が始まり、過密日程が予想される。夏の暑さを考えれば、この2人のベテランを休ませることを考えなければいけないが、代わりになる選手が出てくるかどうか。そこがポイントになる。それでも広島は今季も、優勝に絡んでくるだろう。
心配なのは神戸だ。先発メンバーには山川哲史と佐々木大樹以外は控え選手と新戦力の選手ばかりで、完全に1軍半。前半は広島に圧倒され、打ったシュートはわずか1本だった。後半19分に大迫勇也、武藤嘉紀、酒井高徳を投入して勝負に出たが、流れを変えられず、逃げ切りを許した。運動量、球際の激しさといった神戸らしさがなく、完全な力負けだった。
本来、スーパーカップはキャンプの成果を試す大事な試合。ところが神戸は、昨季11得点の宮代大聖、中盤のダイナモ井手口陽介、優勝に貢献した広瀬陸斗、井出遥也といった選手がベンチ外。キャンプ終盤にケガ人が続出したといわれていただけに、彼らがそうなのだろう。
前半のメンバーを見れば、レギュラー組とのレベルの差は大きい。過密日程を戦い抜くためにも、まずはケガ人が早く戻ってくることを願うばかりだ。唯一の収穫は、大ケガから復帰した齊藤未月がフル出場したことだけ。
神戸はACLEを制覇してアジア王者、そしてリーグ3連覇を目標に掲げている。しかし2連覇したとはいえ、圧倒的な強さで勝ったわけではない。スーパーカップの試合内容だけを見れば、目標達成は簡単ではない。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップ・アジア予選、アジアカップなど、数多くの大会を取材してきた。