将棋のプロ棋士になるためにはまず「奨励会」に入る必要がある。三段から6級までで構成されており、二段までは東西に分かれて行い、昇段規定をクリアして三段に到達すると、東西合わせたリーグ戦を半年単位で行う。勝ち上がった上位2名だけが四段になり、正式な「棋士」となる。
三段リーグは「鬼の棲み家」と呼ばれ、棋士でさえ足を踏み入れるのをためらうほど、張り詰めた世界。全国から集まった天才たちの夢をあっけなく砕くこのリーグで現在、14勝0敗の圧倒的な成績で独走する棋士がいる。深浦康市門下の齊藤優希だ。
2018年に三段リーグ入りし、これまで負け越しは一度だけ。通算14期、154勝94敗を誇る実力者だ。「あと1勝で昇段」が2回、次点1回と、いつ勝ち抜けてもおかしくない成績を残している。一方で28歳の齊藤には常に「強制退会」の恐怖がつきまとっている。奨励会の規定には「年齢制限」の項目があるためだ。
〈満21歳の誕生日までに初段、満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなかった場合は退会となる〉
この文言には続きがあり、
〈ただし、最後にあたる三段リーグで勝ち越しすれば、次回のリーグに参加することができる。以下、同じ条件で在籍を延長できるが、満29歳のリーグ終了時で退会〉
つまり、現在28歳の齊藤は、負け越した時点で強制退会になってしまうのだ。実際に第74回リーグ戦では、序盤の7局を1勝6敗と大きく負けが先行する大ピンチに陥ったが、残りの対局を10勝1敗とし、なんとか強制退会を免れた。
今リーグ戦ではここまで無敗の齊藤だが、残り4局で1勝すれば2位以上、2勝で1位通過が確定する。もし3勝すれば、三段リーグ歴代最高勝利を更新。4勝ならば、史上初の三段リーグ全勝の快挙となる。
悲願の四段リーグ入りを、なんとしてもここで決めたいことだろう。次回2月16日に行われる15回戦が、運命の一歩となる。
(ケン高田)