「ピッチロック」や「ランナーズレーン拡大」「牽制回数制限」など、ここ数年で数々のルール変更を行ってきたメジャーリーグが、今季から新たに「封殺回避の二塁・三塁ベース駆け抜け禁止」を実施する。
例えば二死一・三塁で三塁ゴロが二塁へ送球された際、一塁走者がスライディングせずに二塁を駆け抜けたとする。封殺できなかった場合、これまではオーバーランした走者へのタッチが必要だったが、今後は両足が二塁を踏み越した時点でアウトとなる。近年、ヤンキースやカージナルスがよく使っていた頭脳プレーで、一塁走者がタッチアウトになるまでの間、三塁走者が得点を狙い、野手と鬼ごっこのようになるシーンを見たことがある人はいるだろう。
2020年にはイチローが智弁和歌山の選手に、この戦法を伝授。その教えを実践する場面がきたのは、2021年の夏の甲子園大会出場を懸けた、和歌山大会の決勝だった。8回裏の二死一・二塁の場面で、遊撃へのゴロが二塁に送球されたが、一塁走者の判定はセーフ。ところが一塁走者はそのまま二塁ベースを駆け抜け三塁へ向かったことで野手が翻弄され、二塁走者が一気に本塁まで返って貴重な追加点をもぎ取ったのだ。
確かに走者は駆け抜けた方が速度が落ちずにセーフになりやすく、封殺されるくらいならワンチャン試してみたいプレーである。観客側も野手と走者の駆け引きを楽しめる部分はあろう。
近年のメジャーリーグのルール改正は「試合時間短縮」を目的にしたものが多い。「封殺回避の二塁・三塁ベース駆け抜け禁止」は、守備妨害や危険プレーを避けるというよりも、同じように無駄なプレーを省く意図があるのだろう。
日本球界でもピッチロック導入が検討されているが、どんどんメジャーリーグに追随するようなことになれば、イチロー譲りの頭脳プレーは将来的に見ることができなくなってしまうかもしれない。
(ケン高田)