自己負担額の引き上げ問題で大揺れの「高額療養費制度」。石破茂総理は当初、患者が支払う上限額を、今年8月から段階的に引き上げていく方針を表明していた。
ところがその後、患者団体や野党から猛烈な批判を浴びせられ、2月14日には長期治療が必要な患者の引き上げを据え置くとの修正案、同28日には来年以降の引き上げについては再検討するとの再修正案が示された。しかし迷走はさらに続き、3月7日には今年8月からの引き上げ自体を見送る考えが示されたのである。
ただし、油断はできない。野党各党の間では「今夏の参院選後にシレッと引き上げに踏み切るのではないか」との警戒感が広がっているのだ。
今後の行方が注視されるゆえんだが、実は高額療養費制度には上限額の引き上げとはまた別に、制度を利用する患者や家族の間で意外に知られていない「落とし穴」が仕掛けられている。ズバリ、「月またぎ倍額払い」の罠だ。
前提となるのは「高額療養費制度の自己負担額は月初から月末までの1カ月単位で精算される」という事実である。具体的な例を挙げて説明していこう。
例えば定期検診で「ガン」が見つかり、「手術」と「入院」が必要になったとする。最近は病床の回転率を上げるため、入院期間の短縮化が進んでいるが、それでも切除手術などを含めた入院期間は、最低でも2週間くらいはみておかなければならない。
この時、入院から退院までの期間が同じ月内であれば、自己負担額は1カ月分で済むことになる。ところが入院期間が1日でも月をまたいでしまえば、2カ月分の自己負担額を支払わなければならないのだ。
月をまたいで30日間の入院なら、渋々ながら諦めもつくだろう。だが「たった1日」またいだだけで「倍額払い」というのは、あまりにも不公平である。本来は月替わりごとの精算ではなく、日割計算で負担額を決めるべきなのだ。
いずれにせよ、月またぎ倍額払いを避けるためには可能な限り、入院期間を同月内に収める工夫が必要になってくるのである。
(石森巌)