第153回芥川賞を受賞したお笑いコンビ・ピースの又吉直樹(35)の初小説「火花」を巡る“フィーバー”が収まらない。何かスゴイ傑作らしいが、ここまで騒がれると、買わないまでも話のタネにひととおり完読したようにふるまい、軽く批評までしてみせたくなってくるのだ。
「火花」の版元である文藝春秋の社員が言う。
「連日、メディアから増刷部数を問い合わせる電話が鳴りっぱなし。社内では『1年くらい働かなくてもいいんじゃない?』と冗談を言う人もいるほどです」
受賞直後に40万部増刷し即座に完売。7月21日に急きょ20万部の増刷が決定し、累計発行部数は7月24日現在で124万部だとか。書評家・永江朗氏は又吉の「純文学への愛」を感じる作品、とこう話す。
「悲惨な話を展開しながらも、どこか笑えるように書いている点は、彼が尊敬する太宰治の影響を強く感じられました。何十回も読み、勉強した証左でしょう」
一方、受賞当日の「報道ステーション」(テレビ朝日系)で、古舘伊知郎キャスターが「芥川賞と本屋大賞の区分けがなくなってきた感じがします」と、皮肉を言ったり、和田アキ子が「アッコにおまかせ!」(TBS系)で、「何も感じなかった」と率直な感想を述べるや、ネットで猛批判されたりもしている。
こうなると、ウハウハな又吉をこれ以上儲けさせたくはないが、詳細なストーリー展開くらいは知っておきたくなってくる。そんなムシのいいアナタのために、又吉が見たら激怒しそうなほどにネタバレな「超早送り解読」を敢行だ!
──駆け出し中の漫才コンビ「スパークス」メンバーの主人公〈僕〉は、営業で訪れた熱海で4歳年上の先輩芸人・神谷と出会う。神谷は大林という男とお笑いコンビ「あほんだら」を組んでいるが、破天荒すぎるスタイルが理解されず、鳴かず飛ばず。が、その独自性と〈あらゆる日常の行動は全て漫才のためにあんねん〉〈欲望に対してまっすぐに全力で生きなあかんねん〉と語る神谷の漫才観にホレ込み、〈僕〉は弟子入りを願い出る。神谷は自分の伝記執筆を交換条件に快諾した。
1年後、周囲では同世代のお笑い芸人が活躍し始め、〈僕〉は、芸人としての力の差を痛感する。そんな中、神谷が拠点を東京に移すことになり、本格的交友が始まる。神谷も、依然、本業の仕事はなくバイトもしていない。しかし毎日のように2人で飲み歩き、代金は全て神谷持ち。先輩芸人は後輩にオゴるもの──典型的な芸人気質の神谷だが、金は真樹という女性の財布から出ていたと知る。〈僕〉同様、神谷の才能にホレ込んでいた彼女は金を捻出するため夜の店で働き、飲み歩く2人を常に優しく迎え入れる。ヒモ同然の神谷を満身創痍で支える真樹の姿に〈僕〉は思いを寄せていく。
だが、その後も〈僕〉は貧乏生活のままで月に数度の劇場公演と深夜バイトの日々が続く。赤ん坊にも一切ブレずにみずからの奇天烈なスタイルを全うする神谷と比べ、自分の小ささに嫌気が差し、四六時中、芸人であり続ける覚悟が持てない日々を過ごす。