先に触れた「使えないヤツ」の増加によっても、トラブルが頻発しているという。
「よく作業上のトラブルが東電から発表されていますが、あれは氷山の一角。高所から工具を落としたレベルまで含めれば日常茶飯事です。ある時は構内の交差点で車が横転していたこともあります。元請け控え室のトイレ個室の壁は、世間には公表されていないトラブルの具体例を詳述した貼り紙だらけ。皆、用を足しながら読んでいるんです」
長田氏が担当する1号機でも昨年10月に大きなトラブルが発生した。建屋カバー解体前に建屋内に降り積もった放射性物質を含んだ粉塵の飛散防止のため、カバーの屋根に最小限の穴をあけて飛散防止薬剤を注入中、注入器が突風にあおられ、屋根に大穴をあけてしまったというものだ。
「あの時は海風であおられて注入器が想定外の動きをするのを最小限にするため、クレーンのフックから注入器をぶら下げるワイヤーの長さを短めにしようと現場が提案したのですが、東電側が『クレーンのフックが建屋に近づきすぎて、フックが汚染される』と反対しました。その結果があの事態。クレーンは以前から1号機近くに据え置きですからフックはすでに汚染されているはず。あの局面で汚染を気にする意味が現場としてはわかりかねます」(長田氏)
東電に対する長田氏の不信感は募るばかりだ。だからこそ気になるのは、劣悪な環境で危険を伴う作業の収入である。
「12年当時は月給の入った封筒が机の上で立ちましたが、線量が下がったとはいえ、今も同じ1号機周辺で仕事をしているのに実入りは半分になりました」
東電の廣瀬直己社長が記者会見で13年12月契約分から元請け企業に支払う作業員日当を1万円増額することを公表しているにもかかわらずだ。長田氏も、
「確かにその話は聞いてるけど、どこにどう消えているのか?」
と首をかしげる。
震災直後、福島第一原発に近いいわき市内の繁華街は作業員であふれかえり、作業員同士の喧嘩も絶えなかった。しかし、最近では当時のにぎわいはうせている、と地元の人々は判で押したように口にする。
「まあ俺たちの給料の減り方を見てもわかるように、作業員はいわきで飲み歩くほどの日当を手にしていないということだよ」
公式発表と現場実態がさまざまな点で乖離する福島第一原発の収束現場。事故から4年以上を経て、指名手配犯の行方同様に不透明感は増すばかりなのだ。