3年前、高市早苗総務相が自民党政調会長だった時、原発事故について「死者が出ている状況ではない」と発言。物議を醸したが、原発関連死はこの5年間で地震・津波で犠牲になった直接死(1604人)を上回る2000人を超えた。そのうち南相馬市が最も多く、480余人に及んでいる。私の高校時代の恩師も避難先の寒い体育館で過ごし、そのまま帰らぬ人となった。
医師や弁護士、ケースワーカーの判断で関連死と認定されれば、犠牲者が世帯主なら500万円、その他なら250万円の弔慰金を自治体は出している。この場合は遺族に感謝されるというが、こと東電からの賠償金に関しては、住民はナーバスだ。住民間に軋轢が生じ、コミュニティは完全に崩れてしまった。
現在、20キロ圏内の帰還困難区域や居住制限区域に認定された世帯は、東電から1人当たり月額10万円、加えて年間約30万円が交通費や雑費として支払われている。つまり、1人当たり年間約150万円、この5年間で約750万円を被災者は手にしたことになる。
そのためだろう。当然のごとく、認定から外された20キロ圏外の住民は怒っている。
「勝手に国が線引きをして決めたんだからね。たった200メートルの差で20キロの線引きから外れた私の友人なんか、もうごせやけて(腹を立てて)20キロ圏内の連中とは話もしないってよ」
また、ある住民は皮肉を込めて語った。
「東電は原発事故後に生まれた赤ちゃんにも月額10万円を支払っている。その理屈だったら、20キロ圏内の住民と養子縁組すれば、俺だってもらえる。そこで東電の相談所に行って聞いたら、それはできないと言う。バカにしてんだよ、東電は‥‥」
さらに取材を進めると、こんな話も聞こえてきた。
原発禍の街を行くと、汚染土が詰まった黒いフレコンバッグがあちこちの仮置き場に積まれている。不気味な光景だが、当初は住民の誰もが仮置き場にする土地を市に提供することを渋っていた。自分の土地を被曝させたくないからだが、一転して提供する者も現れた。理由は単純で「1反(300坪)当たり、年9万6000円の補償金を出す」と市側が提案し、受け入れたのだ。
「あん時は参ったよ。地権者は『米を作るよりも儲かる』ということで貸すことになった。しかし、仮置き場の周りの土地の地権者たちには1銭も入らないから、怒ってしまった。それに、のちになってわかったんだが、20キロ圏内の地域は環境省の管轄で、あっちは1反当たり年18万円。今度は市に提供した地権者たちが騒ぎだした。まあ、金のことになるとみんな勝手だよな」
ある区長は、そう言ってボヤいた。
岡邦行(ルポライター)