一時は「干された」と指摘された社台グループも、体調面の不安が消えて、本来の天才ぶりを取り戻しつつある武の評価を見直し始めた。ベテラントラックマンは、
「以前、GI当日にローカル競馬で騎乗する豊さんの姿を見て、ノーザンファームの吉田勝己代表が『(日本競馬界の)第一人者がここ(GI)にいないなんて、競馬サークルとして恥ずかしいね』と話していました。第一人者という発言に、両者の『雪解け』が近いと感じたものです」
武はノーザンファーム生産馬で13年に8勝し、昨年は14勝。そして今年はすでに21勝を上げている。「帝王」の信頼はもうすっかり取り戻したと言っていい。
全盛期を彷彿させる勢いは、先の2歳馬の快進撃でさらに増しそうで、
「クラシック登竜門の一つ、東スポ杯の勝ち馬・スマートオーディンの父ダノンシャンティは、NHKマイルCの覇者。骨折でダービー出走がかなわなかった無念を晴らせるだけの逸材です。新馬戦から乗っていたデムーロが訳あってロスカボス(東スポ杯8着)を選び、武が乗ることになった。今後の騎乗は微妙ですが、注目の一頭です」(前出・ベテラントラックマン)
ドレッドノータスは有馬記念当日のホープフルS出走が有力で、こちらもダービーを見据えている。そして、さらなる悲願が──。
「平地GIで唯一勝っていないレースが朝日杯FS(12月20日)。デイリー杯を勝ったエアスピネルで挑む公算大です。本人も『ぜひ勝ちたいね』と意気軒昂でした。それもそのはず、管理する笹田和秀調教師は名伯楽・伊藤雄二元調教師の娘婿。伊藤師と武といえば、シャダイカグラやエアグルーヴなどでタッグを組んでおり、その下で番頭格だった笹田師ともツーカーの関係ですからね。そのうえ、エアスピネルの母エアメサイアは武とのコンビで秋華賞を勝っている。まさに血と人のロマンを感じさせます。前人未到の大記録へのお膳立ては整いました」(前出・ベテラントラックマン)
週刊アサヒ芸能連載でおなじみの競馬評論家・伊吹雅也氏が朝日杯を占う。
「かつては『桜花賞男』と呼ばれていた男。阪神芝1600メートル内回りのGI(06年、桜花賞以前)で【6 4 2 16】と堅実だったのに対し、阪神芝1600メートル外回りのGI(06年、阪神JF以降)は【0 1 1 11】と未勝利。しかも2、3着となった2回は単勝1番人気の支持を集めたレースで、通算でも単勝回収率48%、複勝回収率64%と人気を裏切りがちな舞台です。この傾向を覆すようなら、復活はいよいよ本物と思っていいでしょう」
「全GI制覇」で「キングの夜明け」を祝い、来年のクラシック戦線での大躍進につなげてほしい。