競馬サークル関係者が解説する。
「通常、エージェントは担当騎手を3人まで持ちますが、社台グループなど有力馬を管理する馬主や調教師はリーディング上位の騎手を複数抱えるエージェントを好む。例えば福永祐一、岩田康誠、四位洋文を担当するエージェント。この3人の誰かが乗れるとなれば安心感があり、素質馬も集まりやすくなる。でも、武のエージェントが担当するのは武1人だけ」
その結果、低迷中の騎手は多数の厩舎の馬に乗ることになる。だが、実はこれが逆に、武復活への道となったのだという。
「多い年は70厩舎を超えるほどで、他の騎手が敬遠する不人気馬、クセのある馬にも乗り、穴をあけることもありました。依頼する調教師に元騎手が多かったのは、皆その凄腕を熟知しているし、芝かダートか、距離適性など、次走への進言が参考になるからです。兄弟子の河内洋師や松永幹夫師、鹿戸雄一師などは『豊クンが来るんで』と言いながら依頼馬の調整をしていた」(ベテラントラックマン)
とりわけ松永厩舎の管理馬は馬券戦略的にも注目だ。今年は重賞勝ちを含む11勝で、勝率は26.8%と好成績を残しているのだ。
「このタッグは13年も9勝して勝率20.5%と優秀で、この年からユタカの波は上がり始めていた。尊敬するアンカツさん(安藤勝己元騎手)の助言や、親友の大リーガー、イチローの体調面の進言もあり、(落馬骨折の影響が残る)肩甲骨回りのケアや腰痛対策になる体幹トレなどを個人トレーナーのもとでじっくりとやって鍛え直した効果が表れ始めたのです。天才と称される騎乗術の一つである『体内時計』を生かした逃げで勝ち星を積み上げた」(栗東トレセン関係者)
競馬関係者を驚かせたレースに、13年夏の函館記念があげられる。スポーツ紙デスクが回想する。
「3番人気トウケイヘイローとのコンビで、中盤から残り400メートルまでを1ハロン 12秒1、12秒1、12秒0、12秒0と、まるで精密機械のようなペース配分で逃げ、レコードに迫るタイムでの圧勝劇でした」
今年はそんな精密機械ぶりが顕著。オークス後の12レースで残り200メートルまでの6ハロン 全てを12秒3前後、誤差わずか0.1秒で刻み続け、3馬身差で逃げ切った。
「連対時の脚質を見ても逃げが32回あり、全騎手中トップ。M・デムーロやC・ルメールの2倍です。ディープインパクトやキズナでの追い込みの印象が強烈すぎて意外に映りますが、記者の間では今、『武の人気薄の逃げ馬は買い』というセオリーさえあるんです」(前出・スポーツ紙デスク)
10月の毎日王冠でもエイシンヒカリで絶妙なラップを刻み、後続を完封。華麗な逃走劇を演出している。