食への影響
中部大・武田邦彦教授
食物を培養する「腐葉土」にセシウムが蓄積!
「自家栽培」でも日本にいる限り安心できない
原発の事故処理問題にはさまざまな問題があるが、一般消費者がいちばん気になるのは「食の安全性」だろう。政府が発表する“ウソ〞と“起こるべき可能性〞について、原子力安全委員会委員を務めた中部大学教授・武田邦彦氏が「安全基準の落とし穴」を指摘する。
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「まず1つ目として、放射性物質、ここではセシウムですが、国が定める安全基準値が実態にそぐわないという問題があります。セシウムの半減期自体は30年です。そして、体内にとどまるのは3カ月。それで、1回の食事で摂取した危険値が1キロ=100ベクレル とされていますが、食物全般が汚染されているとすれば、何度も摂取している可能性があるので、1回摂取した危険値だけでは何が危険か安全かわかりません。しかも、こんなズサンな基準値では、高濃度の汚染地域で取れたものはどう考えればいいのか」
事故直後はよく語られた「食の安全性」だが、時間の経過とともに、消費者の意識はしだいに薄らいでいる感もある。
「おっしゃるように、確かに意識は薄らいでいると言えます。1つ目の問題に関することですが、食物を培養する腐葉土のことを考えてみれば、時間がたつごとに堆積は進みます。むしろ時間が経過したことで、腐葉土などから食物汚染が蓄積するという事態が考えられるわけです。しかし、こうした実情が、はたして消費者にダイレクトに伝わるかどうか。産地偽装など、提供者は往々にしてごまかしますからね」
政府や提供者が信用できないからと、自家栽培で食材を育てている人もいると思うが、それも問題ありだという。
「家のプランターなども危ないと言えます。購入してきた腐葉土に、大量のセシウムが蓄積しているとも限らない。1回当たりの摂取は大したことはありませんが、それが繰り返され長期にわたると、どれだけ蓄積するかわかりませんからね」
さらに、食物の汚染は、どこでどう表れるかわからない危険性をはらんでいて、単に消費だけでなく、生産者側の問題もある。
「例えば、静岡のお茶が高濃度汚染にさらされて出荷できないという事態が起こりましたね。なぜ静岡のお茶だったかといえば、この現象は『アンリアリスティック・アブソリューション』(非現実的吸引)と呼ぶ現象なんですが、人間への影響とは別に、特定の食物に原因不明な放射性物質の蓄積が起こるという、科学でも解明のつかない、まさに『非現実的』な現象が起こるんです。これが判明したら出荷もできずに経済的打撃になります。今後、ガレキの受け入れが進む東日本以外の地域でも、どこで高濃度の蓄積が起こってもおかしくない。そうなると、消費者だけでなく、生産者においても深刻な問題となりかねません」
ガレキ処理は全国の自治体が関わる問題である。したがって、「東日本以外だから安全」というわけではなく、日本にいるかぎり放射能の危険からは回避できず、安心はできないわけだ。
「チェルノブイリの実例では、小麦などでの報告があります。ですが、生産される農作物と環境など、あらゆる点で当地と日本は違いますからね。非現実的な蓄積で、どこにどう出るのかわかりませんが、今のところ出たのは、新茶の葉と、シイタケ、あとは、ヒマワリと魚などです」
政府の行き当たりばったりの基準値策定を批判し続けている武田教授は、最後にこう締めくくる。
「国の基準値は低く設定されています。まだわからないことが多いわけですから、個人が意識を高くするしかないでしょう」
いったい、何がどうなったら安心できるのか。食の問題はまだまだ続きそうだ。