4号機の危機
「マスコミ公開」は東電側の情報操作!
プールの底「宙ぶらりん」で大地震ならアウト「あれほど過酷なものかと」。
5月26日、福島第一原発4号機の廃炉作業の進捗状況の視察を終えた細野豪志原発事故担当大臣は、こんな言葉で現場・建屋の状況に、あらためて驚きの色を隠さなかった。同視察は併せてマスコミにも公開。事故後、初公開された原子炉建屋の内部状況から見えてきたものとは‥‥。
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この日、原子炉建屋が公開されたのは、4号機は事故当時、定期検査中で原子炉内には燃料がなく、放射線量が他号機に比べて低かったため。ただ、「使用済み核燃料の取り出し問題」があり、東電としては、この作業が“順調〞に進んでいることをアピールしたい狙いがあった。
だが、公開されたマスコミのカメラが映し出したものは、いまだ残るガレキにひん曲がった配管や鉄骨、そして、使用済み核燃料が沈むプールは、当日の晴れ渡った青空の下、むき出しのまま‥‥と、あらためて事故のすさまじさと後処理の困難さを物語っていた。
これのどこが「順調」なのかと不安になるが、京都大学原子炉実験所の小出裕章助教も、4号機の危険性についてこう解説する。
「4号機に関しては、とにかく使用済み核燃料プールを冷やし続けなくてはいけない状況です。ところが、建屋が壊れて巨大なプールの底の部分が宙ぶらりんみたいな状況にあります。下から鉄骨をあてがってコンクリートで固めて補強はしていますが、建屋の損壊の状況から床の全体を支えられるわけではなく、耐震強度に問題があります。もしまた大きな地震が起きたら倒壊して、大量の放射能がまき散らされる危険な状況にあります」
つまり、余震で再度巨大な地震があれば“一発アウト〞の綱渡り的な状況にあるというわけだ。聞けば聞くほど東電が言う「順調」とはいかほどなのか?
と疑いは深まるばかりだが、今回の公開について、かつて原子力委員会専門委員で現在、独立総合研究所社長の青山繁晴氏は、“別の意図〞を指摘する。
「今回、4号機を公開したことには、同機のプールの問題を矮小化する“情報操作〞の疑いがあります。野田総理は原発事故について冷温停止したと言いましたが、1〜3号機が冷温に保たれているのは、あくまで仮設の循環システムによるもの。使用されているビニールのホースは、例えるなら伸びた雑草が食い込んでいるだけのような暫定的なものです。食い込んでいるうちはまだいいが、草が枯れたら穴になり、冷却水が漏れて循環システムに支障を来します」
では、丈夫な循環システムに変えればいい話だが、それができないのは、水素爆発で吹き飛んだ高濃度のガレキの処理がまだ進んでいないからだという。青山氏が続ける。
「そのガレキ処理も、私は福島で最終処理まで行うべきと考えますが、野田総理と細野大臣は福島県民に対して行うべき説得をキチンとしていない。中間処理ですら他県は引き受けに消極的なんですから、最終処理はどうするつもりなんでしょう。ところが、細野大臣は八方美人で何の交渉もしていないし、野田総理は消費税アップしか頭にない。日本だけでなく世界への影響を考えたら、本来は両人のクビを差し出しても取り組むべき問題なんですが」
つまりは、こうした政治の怠慢から、世間の注目をそらすための「4号機の危機」が、公開によって語られているというのだ。
しかも、公開で細野大臣に同行した記者からは、こんな不満の声も聞こえる。
「公開と言いつつ、我々が許されたのは、東電が用意したバスで建屋の周辺を巡るだけで、建屋内部に入れたのは国内外のカメラマンが4人。どこが公開なんでしょうか」
前出・青山氏も次のように言う。
「『プールがむき出しになっているのは危険だ』と伝えるメディアがありましたが、そもそもプールは、ふだんから建屋の薄い天井以外のカバーがないんですから。不勉強もはなはだしい」
こうした報道が出るあたり、ある意味“情報操作〞は成功したと言えそうだが、前出・小出助教は、次のように指摘する。
「発電所の冷却で発生した大量の汚染水の処理の問題は、早く安全な処理をしないといけない。私は3月から『巨大タンカーに移すべき』と言っているんですが、タンカーを丸ごとムダにするお金の問題なのでしょうか、いまだ実現していないし、汚染水の処理は片づいていません。ですから今後、海に流れ出して、魚の汚染が広がるでしょう」
原発事故処理は、国民の安全性より、政治や金の問題が先行しているようだ。