社会

福島第一の悲劇は終わらない!(5)

一時帰宅者の声

プロレスラー・宮本和志氏
公園にある「汚染土の山」を見て大ショック
「これがある限りは戻れないと思いました」

 現在、福島第一原発の半径20キロは災害対策基本法に基づく「警戒区域」となり、住民ですら許可なく入れない。全町が警戒区域に設定された富岡町出身で、全日本プロレス所属時に数々の王座を獲得し、現在はフリープロレスラーとして活躍する宮本和志氏(33)は、今年3月、一時帰宅者として事故後初めて警戒区域入りした。その目に映った故郷の今とは?

「警戒区域に入ると、上空には監視用のヘリコプターがいて、街全体の雰囲気がまるで映画に出てくるゴーストタウンのように変わっていました」

 宮本氏にとっては事故前年の秋以来の「帰省」となったが、一時帰宅は定められた時期にあらかじめ町役場に申請して許可を得なければならず、始まりからものものしいものだった。

「まず、一時帰宅者は警戒区域境界の集合場所で支給された防護服、マスク、靴下、手袋、線量計を身につけます。そこから自家用車で出発し、最大4時間以内に戻らねばなりません」

 福島第一原発から約7キロ、富岡町夜よの森もりにある実家にたどりついた宮本氏を待ち受けていたのは、変わり果てた我が家の姿だった。

「家の前は屋根から落ちてきた瓦が砕け散り、庭は枯れた雑草で荒れ放題でした。私が生まれた頃に建てられた家なので、築30年ぐらいです。家は地震で半壊し、天井が落ちて室内は雨漏りしている状態。仏壇など、さまざまなものが倒れ、家畜が侵入した跡もあって、食い荒らされたお菓子の袋がグシャグシャになっていました。帰る家はそこしかないわけですが、もはや人が住める状態ではありませんでした」

 実家から徒歩1、2分にある「夜の森公園」。周辺は2000本以上のソメイヨシノが並ぶ総延長2・5キロの桜並木があり、毎年10万人以上の観光客でにぎわう全国有数の桜の名所だ。

「公園内には除染で剝ぎ取った放射能汚染土が積み上げられ、シートがかけてありました。同じものは近くにある母校の富岡二中の校庭にもありましたが、あれがあるかぎりは戻れないと思うと、ショックでした」

 住民の避難後、家畜だった牛が野生化していて、路上には牛のフンが散らばり放題。宮本氏の実家に侵入したのも、そうした牛だったのだろう。しかし、生き永らえることができた牛はまだましなほうだ。

「実家近くにある牛舎の中に入ってみたんですが、鼻環を付けてつながれたままの牛が白骨化していました」

 徘徊しているのは牛だけではない。宮本氏がよく利用していたJR常磐線・富岡駅を訪れた時のことだ。ここは地震による津波が押し寄せた場所でもある。

「駅舎もなくなり、周囲は津波で倒壊した家屋や流された車などが放置されていましたが、そこに突然ダチョウが現れたんですよ。ビックリしましたね。近づくと威嚇してくるので、ちょっと怖かったです」

 プロレスラーをもおびえさせたそのダチョウは、富岡町の隣町・大熊町にあった民営のダチョウ園から逃げ出したもの。そのダチョウに遭遇した場所は、くしくも福島第一、第二の両原発に挟まれた場所でもあるのだが、宮本氏自身、プロレス界に入る前、事故を起こした福島第一原発に工具を納入する業者でアルバイトをしていたこともある。

「構内は壮大かつこぎれいで1つの街のようでした。休憩時間には構内に駐車したトラックの荷台で服を脱いで日焼けしたりしていましたね。当時は危険という意識は微塵もなかったですから」

 そもそも宮本氏にとって、原発は生まれた頃から生活圏に存在していた。

「小中学校の同級生の親には原発で働いていた人も大勢いましたし、地元では中学卒業後は東電学園高等部(07年閉校)に入学して、東電社員になるのがエリートコースの1つでした。小学校の社会科見学でも原発に行っていましたし、安全だと思っていましたから、事故が報道された時も、まさかと思ったほどです」

 しかし、現実に事故は起こり、両親は郡山市で避難生活中だという。周辺の仮設住宅などでの慰問活動にも取り組んでいる宮本氏は、住民の声を代弁する。

「内陸の仮設住宅に入居していた人は、冬の寒さで体調を崩す人も少なくないですし、『寂しい』という声もよく耳にします。そもそも自分の両親も含めて、皆、先が見えない生活にさいなまれ続けているのが現状なんです」

 事故をいまだに収束できない政府と東電は、この声にどう応えるのか?

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