漫画には植松容疑者の刺殺事件を想起させるセリフもあった。
〈単なる犯罪じゃない 崇高な目的が流血をあがなう〉
〈資格を持つ者には手段として殺しも許される〉
Aさんを脅す時にもこんな場面があったという。
「グループの入会を断り続けていると、Xはバッグから新聞紙にくるまれたものを見せ、『マカロフPMを持っている』と拳銃の存在をにおわせてきました。『罪と罰』にも同じ拳銃が包装紙に包まれて、主人公に手渡すシーンがあるのです」
計画どおりに凶行は実行された──だが、計画書には別の施設を襲う予定が記されていたと、Aさんは証言する。
「実行日は8月16日。場所は神奈川県内の障害者施設名が明記されていました。その施設内の見取り図が載っていて、夜中に襲うと断言していたんです。参加メンバー8人、運転手2人、内部1人と書かれ、メンバーの中には施設で働く職員がいて内側から鍵を開けるなど手引きをするそうです。グループにとってこの日の計画は、『ゴールであり、スタート』と位置づけられ、『ヒトラーにとっても大事な日』だと言っていました」
8月16日は1936年のベルリンオリンピックの終了日。翌月にヒトラーは党大会で経済復興のために「第二次四カ年計画」を打ち出している。が、Xらのグループの主張とどこでつながっているか、詳しい内容は不明である。
「2つの障害者施設を同日に襲撃しなかったのも、Xの言い分では、『植松が逮捕されてすぐに出頭すれば、計画自体が警察になくなったと思われてやりやすくなる』と話していました」
AさんがXと植松容疑者と最後に会ったのは、7月8日。場所は同じく六本木ヒルズの敷地内だった。
「2人に挟まれて、『入会しろ』『金を払え』『入らないならお前の名前を言って罪をかぶせる』『親の名前も知っている』と40分以上、耳元でささやかれました」
Aさんが断ると、一行は飲食店に移動。そこで植松容疑者はカプセル状の危険ドラッグを飲み、冒頭のように豹変した。
「10分ぐらいたつとロレツが回らなくなり、急に私の右肩にかみついたんです。歯に血が付いたまま不気味に笑い声を上げ、見かねたXが連れて帰りました」
7月10日、植松容疑者からAさんにメールが届く。
〈大麻のルートあるから買ってくれないですか? 220gとルートで80万以上でお願い出来ませんか?〉(原文ママ)
Aさんは薬物経験もなくなぜ唐突に売人に誘われたのか、わからないという。
Xと植松容疑者が企てた「三か月計画書」について、神奈川県警に把握しているか聞いてみると、
「捜査に関することであり、お答えできません」
と回答。8月16日に襲撃先として計画書に書かれた、神奈川県内の施設にも質問すると、
「何もお答えできません」
驚きながらも、そう繰り返した。最初の犯行時に、もう1台来るはずだった車両が来なかったことで、裏切られたと思った植松容疑者が、Xの存在を供述することが期待されている。
「第2の大量殺人」計画が未遂になることを切に願うばかりだ。