確かにそうした厳しい条件では、なかなかなり手がいないことは容易に想像できる。競馬ライターも、懸念を口にするのだ。
「現在も、元トラックマンなどの独立のエージェントはいます。しかし彼らは現制度のもと、複数の騎手を担当し、他に厩舎の手伝いのアルバイトをやっていたりする。馬主への調教レポートを作ったりね。あるいは『今週、調教で動いたからあの馬を使いたいんだけど、いい騎手を見つけてくれないか』と頼まれ、担当騎手以外の乗り役を探すことだってある。だけど、それが1人の騎手しか担当できないとなると、とても厳しい環境に置かれる。結局、新聞社を辞めてまで専属代理人になろうというトラックマンはほとんどいません」
もう一つ、論議を呼んでいる大きな問題がある。新制度は来年からの施行となっているが、その来年1年間は猶予期間、移行期間として、現在のエージェント=トラックマンも騎手1人は担当できる、というものだ。そのうえで、完全に現行制度を廃止し、新たな騎乗代理人制度になるという。トラックマンが、騎手の主張を代弁する。
「その猶予期間は、エージェントが3人の騎手を担当していれば、うち1人だけを選ぶことになる。つまり、2人がハジかれるということですよ。では誰を選ぶのか。騎手の実力的な序列がある、あるいは馬主からの指示などで『1番手』の騎手を選ばなければならない場合、あぶれた騎手はどうなるのか。それを懸念するある騎手は、JRAサイドに苦情を訴えたと聞きました」
このほか、短期免許で来日する外国人騎手を誰がマネージメントするのか、トラックマンが作成する想定表がなければどこに出走できるかなどがわからず、新代理人はそれを買うことになるのか、などという問題もあるが、
「解決法はわからない」(前出・競馬ライター)
こうした数々の問題点を鑑みたのか、横山と蛯名はみずから行動を開始したのだが、
「芸能人が自分でマネージメントをするようなもの。騎手が1人でやるのは至難のワザでしょうね。実際、2人とも乗り数が減ってきていますし」(前出・競馬ライター)
その難しさを、競馬解説者は次のように説明するのだ。
「例えば、前回使って8着の馬を次にどこで走らせるか、という話を、騎手に直接電話して相談なんてできませんよ。レースのドタキャンだってあります。4月9日の桜花賞への出走予定馬が1週前にケガで回避したらどうなるのか。メインとその前の7レースあたりに乗ろうとしていた騎手は、メインの出走がなくなったら、もし関東でなら4、5頭の空きがあるから中山に行くということもできるけど、空きがあるかどうかは、エージェントでないとなかなかわからない。ローカルに行ったり、土曜に中京、日曜に中山となると、これも実に大変。そんなやりくりは騎手にできません。柴田善臣(50)だって『とてもじゃないけど、俺なんか1人でできるわけないじゃないか』と言っています」
騎手自身が騎乗馬交渉をする場合、調整ルームに入って他者との連絡が絶たれる間はどうするのか、という点にも懸念が及ぶ。
「この問題をうまくまとめるには、JRAが『エージェントは馬券操作とは一切関わりがないし、しようと思ってもできない』と説明すればいいんですよ。実際、操作なんてできるわけないんだから」(前出・競馬解説者)
場外での紛糾を一刻も早く鎮め、騎手も調教師もレースで勝つことに専念してもらいたいのだが‥‥。