「殿は、自分で『売れたな~』って実感した頃って、どのあたりだったんですか?」
そんな質問をしたことがありました。すると、
「漫才ブームがドカンと来てよ、そのあと3カ月くらい毎日寝る間も惜しんでテレビ出て、やっとどこの田舎行っても、『たけしだ! たけしだ!』ってやられた時は、“あっ、俺もちゃんと売れたんだな”って思ったな」
と、実に丁寧に答えてくれたのです。
そんな、“ちゃんと売れた時期”からすでに40年近く、いまだ芸能界のド真ん中で売れ続け、間違いなく日本で一番顔の知られたタレント「みんなのたけちゃん」は、確かにどこへ行っても、「おっ、たけしだ!」と声が上がり、レストランで食事をしている時も、大型書店で本を選んでいる時も、いつだって、「サインしてください」「写真いいですか?」と、当たり前のように声がかかるのです。
そういった時、殿はまったく嫌な顔をせず対応されます。わたくし、弟子になって20年。そういった場面で、殿が断った姿を一度も見たことがありません。
以前、そんな殿の大阪プライベート旅行に付き人として同行した際、駅で新幹線を待っている間、青年二人組が、「ファンなんです。握手してください」と、駆け寄って来たことがありました。いつもどおりに、軽く照れながら握手をする殿に、「あのー、写真もいいですか?」と、青年二人は、やはり、もう1つリクエストを追加してきたのです。
この時、〈今日の殿はプライベートなのだから、これは付き人の僕が心を鬼にして断わらなければ〉そう判断し、「すいません。写真はちょっと‥‥」と、マネージャー気取りでガードをするわたくしに、
「北郷、いいよ。写真撮ってやれよ」
と、指示があり、殿が挟まる形でのスリーショット写真をパシャリとやったのです。で、そんな出来事があって、新幹線に乗り込み席に着くと、
「北郷、あーいう時はいいぞ。俺もできる範囲でやるから。止めなくていいぞ」
と、優しい口調で“今後の方針”について、アドバイスを受けたのです。
それから3時間程して大阪に着き、新幹線を降りると、ホームで10人程の“浪速のおばちゃん軍団”と殿が遭遇してしまい、そのおばちゃんたちから、「きゃ~、たけしさん。サインして~」「写真撮ってや~」と、有無も言わせぬ、かなり強引な“プチ撮影&サイン会”が突発的に始まってしまったのです。
時間にして10分程、殿の言いつけを守り、少し離れた所から“おばちゃんたちにもみくちゃにされるスター”を、冷静に眺めていたわたくしに、全てのおばちゃんとのツーショット写真を撮り終えた殿は、浪速軍団が去るとすぐさま、
「お前、今のはさすがに止めろよ!」
と、“何にだって程度がある”といった感じのツッコミを、軽く炸裂させたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!