「萩本さんのところはファミリーだけど、うちはアーミーだから」
かつて、「欽ちゃんファミリー」と「たけし軍団」の違いを、殿はこう表現したと聞きます。もちろん、半分はジョークの入った言い回しであると思うのですが、わたくしには、何も着ないことがユニホームの徒弟制度を重んじる、男だらけのたけし軍団を、実によく表している言葉であると強く思います。
以前、番組で、「マウスピース・ラグビー」という、おかしなスポーツに軍団が挑戦する企画がありました。こういった“無いスポーツ”が得意な軍団の兄さんたちが、殿がスタジオに入るまでの間、“どうやれば面白くなるか”と、リハを開始されたのですが、平均年齢55を超えている兄さんたちの“軍団一軍老朽化問題”が露呈し、かつてのように機敏に動けず、“これは厳しいな。はたして面白くなるのか? 本番は動ける若手がなんとか頑張ってくれ”といった結論にいたったところで、殿がスタジオに入って来たのです。
手にピコピコハンマーを持って現われた殿は、まず、「お前ら、ラグビーのルールは知ってるよな?」と軍団に聞くと、続けざま、「ある程度、本当の試合みたいにできねーと、何にも面白くねーから、ちょっとやってみろ」と、動きの確認をスタートさせたのです。
ちなみに、「マウスピース・ラグビー」とは? ボールの代わりがマウスピースであり、マウスピースを口にはめ、敵陣に突進。タックルで倒されると、口からマウスピースを吐き出し、それを味方が拾って口にはめ、再度突進を繰り返す、リアクション的には、人が一度はめたマウスピースの臭さに、「おえ~~」と、えずきながら悶絶する新スポーツです。
で、軍団の動きをチェックした殿が、「それじゃラグビーになってないだろ。何やってんだ、お前ら。ルール知ってんのか!」と、明らかに不機嫌な表情に変わると、スタジオは一気に緊張感が漂いだしました。そして、思うようにならないリハが続く中、一人の若手が、殿がやろうとしていることとは真逆の動きをしてしまった、その瞬間、
「だから違うって言ってんだろ! どうして若いのはこうヘタかな‥‥」
と、“怒り半分、嘆き半分”といった言葉を漏らしたのです。結局、殿から細かい指導が入り、本番は軍団の兄さんたちが老体にムチ打つ形で奮起され、なんとか盛り上がって収録を終えました。それから3日後。
「こないだのラグビーあったろ。あーいうのは、運動神経が悪いヤツがただふざけてるだけじゃ、何にも面白くねーんだよ。ある程度できたうえで、ボケを足してかねーとダメなんだよ。だから普段から鍛えろとは言わないけど、若いのはそれなりに体を動かせるようにしとかねーと、ボケることもできないんだよ」
と、すでに40を超え、中年太りですぐ息のあがるわたくしに、改めて、“軍団は体が資本である!”的教訓を、サラリと言い放ったのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!