正日氏からの「遺言」は、核・ミサイル開発に言及したものだけではなかった。さらには息子の暗殺についても案じているのだ。公安調査庁関係者が声を潜めてこう明かすのだ。
「後継者としてだけではなく、息子の未来を案じているのか、『お前は暗殺される危険性があるから気をつけろ。お前は居所を絶対に明かすな』と忠告しています。正恩氏が帰る家は10カ所近くあるそうです。そのうちのどこに帰るのか、知っているのは妹の与正氏(30)だけ。それぞれの家には家政婦の女性と料理人がいて、そこで食事をしている。北朝鮮内部からの暗殺も警戒しているのです」
たとえ血縁者であっても、側近を次々と粛清したのも、みずからの命や地位を脅かされる危険を察知したからだという。
11月20日に韓国の国家情報院は、正恩氏の最側近で軍ナンバー2の黄炳瑞軍総政治局長と、秘密警察のトップを長く務めて幹部の「粛清」を主導してきた金元弘第1副局長が処罰されたと、韓国国会で報告した。「不純な態度」(権力を乱用するなどの意味を持つ)が理由とされているが、処罰の内容は不明。政治・思想面を指導する総政治局に検閲が入るのは20年ぶりで、異例の事態だった。
「当局は経済制裁が続いて影響が広がることを恐れ、情報統制を強化するために住民の生活を監視したり、飲酒などの集まりを禁じています」(韓国在住ジャーナリスト)
正恩氏の暗殺を画策するのは、韓国も同じだ。12月上旬に韓国軍は、正恩氏ら首脳部の暗殺を任務とする「斬首部隊」を発足。創設記念式典まで開き、1000人規模の兵士を集めると見られている。
ジワジワと圧力が強まっていく中、北朝鮮は「新たな脅威」を誇示する手段として、7回目の核実験を強行するのか。潮氏はこう話す。
「6回目の核実験以降、たびたび核実験場付近で地震が発生しています。地滑りで岩盤がズレてしまっているため、この問題が解消されないかぎり、やりたくてもやれない状況にあると考えられます」
それでも12月17日は正日氏の命日、30日には正恩氏が軍最高司令官就任の記念日を迎える。「遺言」を実行するため、節目の日に若き独裁者はトランプ政権が設定した「レッドライン」を越えて暴走するのだろうか──。