さらに金正日の遺言は、不断の決意で臨め、とばかりにあらゆる事態でも核・ミサイルだけは手放さないよう、強く言い渡していたのだ。
「『時には妨害が入ってきて、開発をやめるように見せかける必要が出てくるかもしれないが、絶対にやめてはならない』と、みずからの経験を交えて話しています」(公安調査庁関係者)
振り返れば、金正日政権時代から、北朝鮮にとってミサイル開発は重要な外交カードだった。04年5月に開かれた日朝首脳会談で、金正日は当時、総理大臣だった小泉純一郎氏(75)の目を見て握手。そして「ミサイル発射の凍結」を再確認している。が、06年7月に北朝鮮は、「テポドン2」など計7発のミサイルを日本海に向けて発射。その3カ月後には初めて地下核実験まで行い、国際社会の目を欺いて開発を続けていた。前出・公安調査庁関係者が証言する。
「トランプ大統領や安倍晋三総理(63)が何を言ってもムダ。聞く耳など持っていません。(当時)28歳の若さで全権を掌握した正恩氏にとって、父親は神同然の存在です。『遺言』は絶対に守るべきことであり、軍事的に言うと、自分の国を守るために正恩氏がやっていることは正しい。そして、核を持ったところで攻撃する手段がなければ意味はありません。そのために核弾頭を積んだ弾道ミサイルが必要なのです」
正日氏の「遺言」に従って、核・ミサイル実験に固執し、失敗しても成功しても技術を向上させてきたのは事実だろう。米国防情報局は、来年にも核搭載可能なICBMを実践配備できるおそれがあると分析している。
「最近では米国のジョンズ・ホプキンス大学の研究グループが、北朝鮮西部・南浦にある海軍造船所で潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の試験用発射台が近く運用できると指摘しています。過去に東部・新浦でも確認されており、これで2基目。着実に脅威は増しています」(外信部記者)
11月29日に北朝鮮が「火星15」を発射した直後、国連安全保障理事会は緊急会合を開いた。ヘイリー米国連大使(45)は、同日にトランプ大統領が中国の習近平国家主席(64)に電話して、
「北朝鮮への原油供給を止めなければならないところに来ている」
と求めたことを明らかにした。それでも核開発の資源とされる原油の供給源と名指しされた中国の腰は重い。北朝鮮のミサイル発射は批判したが、米国を念頭に単独制裁や軍事行動には反対しているのが現状だ。
国際社会が一枚岩にまとまらない状況をあざ笑うように、正恩氏は「火星15」の発射実験成功を表明して、
「ついに国家核武力(戦力)完成の歴史的大業、ミサイル強国の偉業が実現した」
と高らかに宣言した。本当に「完成」したのか、その真偽は不明ではあるが、現時点で日本が弾道ミサイルに対応するのは難しい状況にあるという。
「日本は迎撃するなどと言っていますが、正直、厳しい。弾道ミサイルはマッハ20以上の速さで飛ぶ。日本の迎撃ミサイルはせいぜいマッハ3か4。それで当たるわけがありません。日本はハワイでミサイルを撃ち落とす訓練をやっていますが、失敗のほうがはるかに多い。この事実は報道されていません」(防衛省関係者)
北朝鮮情勢が緊迫の度合いを強める中、12月上旬に日本政府は敵基地攻撃が可能な戦闘機用の巡航ミサイルを導入する方針を固めた。やりたい放題の北朝鮮に対する抑止力強化につながればいいのだが‥‥。