これに追い打ちをかけたのが、「外国人騎手問題」を巡るトラブルだった。武は10年9月、前任の柴田善臣(46)から日本騎手クラブ会長職を引き継いだ。前出・東濱氏が言う。
「外国人騎手の日本での短期免許期間を現状の3カ月から延ばそうという話が、(社台などの)オーナーサイドから出ました。いつ来てもいい『フルオープンにしよう』と。ところが無制限にすると日本人騎手の仕事に影響します。その利益は騎手会長が守らないといけない。ここでも社台と対立したと聞いています」
ちなみに、問題になった10年のJC降着による騎乗停止ペナルティで、スミヨンは翌11年の短期免許が交付されなかった。外国人信奉を強める社台にとって、武は外国人騎手を排除していると映ったようだが、これもまた誤解だという。前出・片山氏が説明する。
「外国人騎手がトレセンの騎手控え室に来ると、まず語学堪能な武を見つけてハグしたり、食事に出かけたりと、交友は深い。排除とは逆ですよ」
こうした状況のまま、社台が抱える馬に乗れなくなった武は、急激に勝ち鞍を減らしていく。03年から05年まで3年連続200勝以上の離れ業を達成、約4割という驚愕の連対率を誇った天才は、10年に69勝、昨年64勝、今年は全盛期のわずか4分の1の53勝(11月23日現在)と、かつての雄姿は見る影もない。関西のベテラントラックマンは嘆息する。
「騎乗数が激減しています。全盛期は、例えば3頭の騎乗依頼が来て、好きに選んでいた。今は選ぶ余地などなく、来た馬に乗らざるをえない。そもそも騎乗依頼が少ないということは、いい馬を選べない。そして、社台の馬を武に依頼するのは、どの調教師も遠慮するようになった。馬主も調教師も皆、社台にお世話になっていますから。本音では武に騎乗依頼をしたい社台関係者もいますが、上層部に怒られるんじゃないかと、ビクビクしています」
昨年、重賞全120レースのうち、社台グループの馬は51勝。今年はすでに半数の58勝を記録し(11月23日現在)、まさに有力馬の宝庫と言える。 社台大帝国の繁栄ぶりはこんなエピソードでもわかる。前出の東濱氏が言う。
「牧場に馬を買いに行くと、普通は預ける厩舎は買い手の自由意思。でも社台は馬ごとに厩舎が決められていて、調教師も逆らえない。乗り役の決定権も、社台がダメだと言えばそれまで。社台にたてついて成績のいい厩舎はどこにもない状態で、調教師は顔色伺いです」
社台が武排除を打ち出している今、武が以前の成績を取り戻すのは至難の業と言わざるをえないのだ。前出・片山氏が明かす。
「あの武が弱音を吐くこともポツポツありました。『いやぁ、頼まれないんだよね‥‥』と」