テレビでは何十分の枠の中で、CMが入ったりもする。小百合はそこにせっせと出演した。ハッキリと演技が変わったなと思ったのは、その頃からだった。小さくまとまってきた、とでもいおうか。
だけど、何でも場数。映画に出続ければ「ゆり戻し」もあったはずだが、出る作品の選び方に失敗したとしか思えない。
近年、私の周囲の小百合評も、とてもよくない。ある高名な脚本家は「いたましくて(今の小百合を)見ていられない」とまで言った。まるで別人のような、昔とのギャップ。それなのに周囲には、変に雲上人のように持ち上げられてしまう。20歳頃から「神格化」が始まり、変に「処女性」も求められてきた。そして近年はさらに、その傾向が強まっているのではないか。
思えばそんな小百合が大きな影響を受けた女優といえば、樹木希林が思い浮かぶ。小百合が20代の頃に、テレビドラマ「おふくろの味」で共演した縁で親密になった。
樹木は顔立ちも演技も全く違い、オンボロなシトロエンに乗って、つぎはぎだらけのようなパッチワークの洋服を着て‥‥と、何から何まで自分とは正反対の姿にかなり感化されてしまうのだ。だから小百合もフリンジ(紐や糸を垂らしたりビラビラさせたりした、西部劇によく出てくるようなスタイル)みたいな、「らしからぬ」上着を着ていたこともあった。
芸能界で最も仲がいいといっていいほど、プライベートでも付き合いがある2人。小百合は、
「あのズバズバ言う辛口が気持ちいいんですよねぇ」
と最近も話しているようだけど‥‥。
“朱に交わる”という意味では、こんなものもある。小百合は水泳を趣味にしている。実は昔、「怖くて優しい私の先生」と言って慕っていた芦川いづみ(82)が水泳をやっていて、それを見習っていたのだ。スキーを始めたのも、芦川の影響。さらには香水も同じものを買い、化粧を教わった。
小百合の近著「私が愛した映画たち」には、こんなくだりもある。
〈俳優の仕事は体力勝負です。高倉健さんに教えてもらった腹筋100回のほかに、『北のカナリアたち』の撮影に入る前には、腕立て伏せを毎日30回やりました。(中略)撮影の合間に、体を温めるためにシャドーボクシングをしていたら、ひかりちゃんに驚かれましたけど、あれは日活時代に宍戸錠さんに教えてもらいました〉
マネるのが好きな小百合は、かつての「あふれ返るような魅力」を取り戻すべく、年齢を経ても、それを強みに変わらぬ良さと魅力を見せてくれる海外の俳優、女優たちの姿をマネできないものか。
中平まみ(作家)