あなたがこのままの状態で女優人生を終えるのは、あまりにも悲しい気がします。サユリストは不完全燃焼、欲求不満です。いい時を知っているだけにね‥‥。
結婚してから、地元商店街のある店主が「あの人はいつも、いちばん安いものを買っていく」と証言していました。子供の頃の極貧生活を覚えているから、あんなに稼いでも、同じ商品でも安いものを手に取ってしまう。倹約家が体に染み付いているんですね。それはかまわないと思います。だけど、つつましく、ばかりではつまらないでしょう。演技も清純派だとか、神格化されたイメージだとかを引きずっていても、飽きられると思うのです。
あなたは「百合の会」という、昔の映画スタッフが集まる同窓会のようなサークルを主宰しているけれど、そこにやってくるのは男性ばかり。なぜか女性は「入会」させたがりませんね。ステキな女性が来たら、自分がかすむからなのかしら。やはりあなたは「女王」でいたいんでしょう。そういう気概を「意外性のある作品」でぜひとも見せてもらいたいと思っています。
あなたは最近出した著書「私が愛した映画たち」の中で、こう書いています。
〈デビュー作の『朝を呼ぶ口笛』から『北の桜守』まで、一二〇本の映画に出たわけですが、達成感というのはまだないです〉
〈映画女優として、この先、どう歩んでいくのか。それは、まず一二〇本目となった『北の桜守』をじっくり自分の中で消化した後で、見えてくるのだと思います〉
「北の桜守」を消化しなくても、あなたの「未来」はもうハッキリしています。最後に打ち上げ花火のように、いい監督、いい脚本を選び、バーンと思いがけない役をやってほしい。ハミ出すような、ハラハラさせるような、喜怒哀楽が全て詰まっている作品でハジけてほしい。「あぁ、これが小百合だったんだ」と思える素晴らしい作品で。
35年ほど前、あなたが「細雪」に出演した頃、とある雑誌の「友達の輪」というリレーコラムで、あなたは「次」に私を指名しました。私にバトンタッチしたそのコラムであなたが書いていたのは「映画の脚本をお書きになったらいいんじゃないですか」という文章。だからそのうち、あなたから脚本の依頼が来ると思っていたんです。けれど、待てども来ない。私に依頼していれば、今のような停滞はなかったんじゃないかしら。
引退作はぜひ、私に脚本を書かせてほしい。「こんな小百合を観たかったんだ」という作品で有終の美を飾り、スパッと引退してほしい。あなたは「人生二度結婚説」を公言していましたよね。もう夫には十分尽くしたんですし。だからその後は若い男と手に手を取って、駆け落ちのようなことをして、あとは杳として行方が知れない‥‥というふうになってほしい。
それが、ファンが願っていること。私からの最後のお願い、エールです。
〈かしこ〉
中平まみ(作家)