「おい、こんなのが俺んとこに送られてきたぞ。何だこれ?」
楽屋に入ってくるなり、殿はどこへ行くにも持ち歩く〈マジックマッシュルーム、コカ、トリカブト、全品箱売りにて直送。やおきた食品チェーン〉と、でかでかと書かれた、大変パンチの利いたデザインの、世界に1点しかないオリジナルトートバックの中から、カラーで印刷された、A4サイズの用紙をわたくしに見せてきたのです。その用紙を吟味すると、HPのデザインが何パターンか印刷されており、どうやら“たけしさんの新事務所のHPのデザインを、うちでやらせてもらえませんか?”といった、売り込みを目的とした、企画書のようでした。
確かに、独立して間もない殿の事務所は、まだHPがありません。で、殿に、「これはHP作成の売り込みですね」とお伝えすると、
「だったらあれだな。思いっ切りふざけたHP作ってよ、遊んじまうか!」
と、何かをたくらむような顔つきで、新事務所の“お笑いHP”作成を瞬時に宣言したのです。
こうなると、殿は止まりません。もうそこから先は、
「あれだな。いもしねーインチキタレントの写真をバンバン載せちまうか!」
「俺の経歴もよ、〈マサチューセッツ工科大学卒〉とか、〈元国連大使〉とか適当なこと書いてよ‥‥」
「明らかにジジイの写真載せて、〈元宝塚〉とか書いてよ‥‥」
「まったく関係ねーバラバラの広告も載せるか? 〈急募! パチンコ。家族住み込み可〉とか〈学生ローン〉とか、〈よしお。連絡待つ〉とかよ」
等々、どこまでふざけられるか? といった案を、何かに取りつかれたかのように出しまくるのです。
この時、殿と一緒になって“ふざけたアイデア”を出していたわたくしでしたが、ふと思ったのです。〈本当に殿が求めているHPを作ったら、これは混乱するな〉と。皆様、想像してみてください。所属タレントの紹介などを目的とした、まったくふざける必要のないHPに、いもしないタレントの写真が羅列され、訳のわからない広告がちりばめられている様を。きっと見た人は“えっ、何これ? ちゃんとした情報はどこ?”と、混乱するはずです。ってか、HPで混乱させる意味がわかりません。
が、殿はそんなこちらの心配など、例によって、まったくもっておかまいなしに、
「もうあれだな。とことんふざけたHP作ってよ、会社をめちゃくちゃにするか!」
と、ノリノリなのです。
そして、その後もひととおりお笑いHPのアイデアを出し切った殿は、
「こうなったら有料にするか! HP1回見るのに200円。本当は500円だけどよ、〈ただ今セール中につき200円〉。うん。それいいな!」
と、前代未聞の有料HP構想を追加すると、一人勝手に納得しては、ご満悦な殿なのでした。しかし、わたくしも所属する新事務所のHP、心配です。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!