「今日の夜中、井上(尚弥)の試合あんだろ? あれ、何時からだ?」
少し前の土曜の夜、楽屋にて殿からこう問われたわたくしが「はい。朝の4時からWOWOWで放送がありますね」と、知ってる限りの情報をお伝えすると、
「朝4時か。まー、でも見ないわけいかねーしな。しょうがねーから朝まで小説でも書いて時間潰して生で見るか!」
と、殿は実に楽しそうに“オイラは寝ないで生で見るぞ”宣言を、まるで自分に言い聞かせるように言い放ったのです。
ちなみに「夜中の井上の試合」とは、5月19日の早朝(日本時間)に放送のあった、ボクシングの各団体のバンタム級チャンピオンが集い“ごちゃごちゃ言わんと、誰が一番強いか決めたらええんや!”的な大会「ワールドボクシング・スーパーシリーズ」準決勝の試合。WBAのチャンピオン・井上尚弥選手がIBFのチャンピオンと激突する、拳闘ファンならよだれもののドリームカードのことです。熱烈な拳闘マニアで、高校生の頃、ヨネクラボクシングジムに通っていた過去のある殿にとっては、まさに“眠い目をこすりながらでも見る価値のある”大一番になります。
で、そんな殿に、「殿、今日は深夜の2時からヤンキースの田中も投げますね。確かNHKのBSで生中継ありますよ」と、メジャーの中継は時間が合えば必ず見ている殿に新たな情報をお教えすると、
「何? マー君の中継2時からあんの?」
と、一度軽く確認し、
「だったらマー君見て、何とか井上までつなぐか。だけどよかったよ。明日休みで」
と、改めて、たまにしかないオフの前夜の夜更かし宣言を炸裂させたのでした。
しかし、殿は本当にスポーツが好きです。そういえば以前、何かの雑誌の取材で、殿はこんなことを言っていました。
「売れない頃、NHKの漫才コンクールなんかで、どう考えたって俺たちが一番ウケてるのに、『確かにツービートは面白いけど、○○(他の漫才コンビ)たちは長いことやってるから、そっちに賞をあげないとかわいそうだから』なんて理由で、落っことされたことが続いてよ、バカらしくなったんだよ。そこいくとスポーツはつまらないしがらみもなくて、マラソンでも短距離でも、よーいどんで1番先にゴールに入ったやつが評価されるから、一時期、それがうらやましくて仕方なかったね」
殿が愛してやまないボクシングは、リング上で勝った者が称賛とお金を獲得する、まさにリアルスポーツ。殿が好きなわけです。
で、井上尚弥選手の試合のあった翌週の土曜も、「今日は夜中にマエケン(メジャー)の中継あんだろ? あとあれだ。インディー(アメリカのカーレースでCATVで夜中に生中継あり)もやるだろ? 参ったな、また寝れねーじゃねーか!」
と、一人勝手に盛り上がっては、帰っていったのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!