昨年、パ・リーグ首位打者に輝き、今や千葉ロッテの顔とも言える存在の角中勝也(26)。苦節6年で大化けした陰には、前打撃コーチ・金森栄治氏(56)の存在があった。
入団1年目の07年から一軍での出場機会を与えられた角中だが、プロの壁を破るのは簡単ではなかった。4年目の10年は18打数0安打。二軍ではコンスタントに3割をマークしていたものの、一軍ではなかなか結果を出せない日々を過ごし象を、10年から一軍打撃コーチに就任していた金森氏が振り返る。
「名前のとおり“角ばった”スイングをしていました。打撃の基本は腰を使った円運動です。彼には『名前を丸中に変えろ』などと冗談を言ったぐらいです」
この年のオフから、角中は本格的な打撃改造に取り組んだ。金森氏が続ける。
「円運動をひと言で言うと、コンパクトなスイングで球を捉えるということです。コンパクトに振るためにはバットを短く持ち、ワキを締めることが大事。角中には常に『胴体から肘が生えている感覚でバットを振れ』と言い続けました。ワキを締めれば、自然と肘が胴体にくっつく。その状態を忘れるなと」
言葉にすれば簡単だが、体現するのは容易ではない。角中自身も「最初は何を言われているのかわからなかった」と語っている。翌11年のキャンプ、さらにはシーズン開幕後も試行錯誤が続いた。金森理論を体得したのはこの年の夏頃。球を打つまでの始動を少し早めてみたところ、金森氏の言うコンパクトなスイングができるようになったのだ。そのかいあって、この年は初めて100打席を超え、打率も2割6分6厘をマーク。翌年の首位打者獲りへ足場を固める結果となる。金森氏は、一つのことを地道にやり続ける性格の角中だからこそ、ちょっとしたきっかけが実を結んだと指摘して、こう続ける。
「首位打者を獲った昨年も、角中は開幕二軍スタートでした。この年は僕も二軍打撃コーチだったので、彼の練習ぶりを間近で見ていた。二軍では試合前に練習をして、そのあとに昼食をとるのですが、角中はその時間にマシン打撃をする。さらに試合後もマシンを打ってから引き揚げるのが日課でした。それも闇雲に打つのではなく、スイングをきちんと確認しながらやっていました」
この頃ミーティングで、角中が二軍選手にコンパクトなスイングを実践するためにバットを短く持つようアドバイスをしたことがあるという。
「野球界ではいまだに『短く持つと飛距離が出ない』という意見が支配的なのですが、一軍で結果を出している角中の言葉ですから若手は受け入れるかなと思ったんです。翌日はみんな短く持つようになりました。でもほとんどの選手が3日目には元に戻してしまう。一つのことをやり続けるというのは、それほど難しいことなんです」
今季は評論家として、テレビ・新聞等で活動している金森氏だが、愛弟子の活躍はどう映っているのか?
「昨年よりもさらにベース寄りに立ち、左投手の外角球に対応するなど、打撃を進化させようとする意思が出ている。この姿勢があるかぎり、おのずと数字も付いてくるでしょう」
自分は現役15年で580安打しか打てなかった選手ですからと謙遜する金森氏にとって、独立リーグからはい上がってきた苦労人の角中がかわいくてしかたがないといった様子だった。