事態は急展開を見せた。政幸氏が説明する。
「西野建設は9億4000万円かかると言ってきたのです。私がワタミに言いたいのは、家賃があまりに安かったということ。建築費が6億円から7億円ならそれでもいいかと思って納得したのですが、9億円以上となると話は別です。いろんなところに聞いてみると、その施設なら家賃600万円出す、という業者もいたんですよ」
そして政幸氏は西野建設にも不信感を抱く。
「建物を造るにあたって西野建設が相模原市に提出した見積書を見ると、7億2000万円とありました。いったい9億4000万円との差額は何なのかと聞けば、『斜面地を崩すと2億円かかるんです』と言う。本当なのかと思って知人の一級建築士に聞いてみると『とてもそんなにはかからないでしょう。3000万円ほどですよ』と。さらにおかしいのは、西野建設が『7億2000万円の見積もりなど出していない』と言い始めたこと。私が『ハンコがちゃんと押してあるじゃないか』と詰め寄ると『あ、そうでしたか。間違って出しちゃったんですかね』などと言うんですから‥‥」
そう言って政幸氏は「最初から西野建設とワタミの間で話ができていたのではないかとさえ勘ぐってしまいます」と落胆するのだ。
西野建設は老人ホームを建設することで利益を得、ワタミは完成した施設を借りて事業をする。よもや両者が結託して、などということはなかろうが、当初「6億円から7億円」と考えていたというワタミにしてみれば、2億円以上もの「値上げ」はある意味、トバッチリの側面もあるのかもしれない。
とはいえ、納得のいかない政幸氏は横浜銀行、西野建設、ワタミと話し合いの場を持つが、「何とか建築金額を抑えてほしい。家賃も適正額に上げてもらいたい」との頼みに、「すでに契約しているので変更は無理」との返答だったという。
「確かに仮契約書にハンコを押してしまったのはいけないですよ‥‥」
政幸氏は自責の念に駆られつつも、この不条理に、やりきれない気持ちを吐露するのだ。そして横浜銀行、西野建設、ワタミの3社に「通知書」を送付する。