ノンバンクを駆使した迂回融資の実例について、あるメガバンクの元支店長が明かした。
「山口組系3次団体の組長が、大阪ミナミの200坪の更地を所有していました。バブル当時の一等地だから、銀行も坪あたり1000万円~2000万円の評価をしていました。それで、『担保価値は十分あるから、20億円の融資を何とかならんか』と私のところへ話が回ってきたんです」
担保物件の所有者が誰か。それは今も昔も融資する銀行にとって審査における最大のポイントである。仮に大企業の所有だったら問題はないが、相手がヤクザの組長だと絶対に貸せない。むろん土地の所有名義は組長本人にはなっていないが、調査すれば真の所有者はすぐに判明する。そこで元支店長は一計を講じた、とこう明かす。
「銀行の新規融資だと、担保になる不動産の登記簿謄本をあげ、所有者を割り出し、関係先を訪ね歩く、すると、本当の持ち主が簡単にバレるので、直接融資はできません。そこで、銀行時代の先輩が重役として天下っていたノンバンクに頼んだ。そのノンバンク側の重役も、親銀行からの紹介と言えば、社内的な信用力が増し、審査もスルーできる。審査が甘いってレベルではなく、審査なんてあらへん感じです」
銀行とノンバンクという2つの組織が互いに協力することにより、融資審査の盲点をつくことができるというのである。組長はこの融資を株の仕手戦に準備しようとしたという。
「それが問題でした。迂回融資の原資は銀行からノンバンクへの融資ですが、その際の資金使途を明らかにしなければならない。仕手戦とは言わないまでも、仮に金の使い道が『ノンバンク側の取引先の株取引』とバレると厄介でしょ」
そう語る元支店長が続ける。
「それで資金使途は、社会福祉法人の建設計画という名目にしました。実際に存在する老人ホームを融資先として使いました。新しく施設の建設計画を作成し、ノンバンクから合計20億円を迂回融資させたんです」
もっとも仕手戦はうまくいかなかったに違いない。担保になった大阪ミナミの一等地は転売され、現在は駐車場になっているという。
この山口組系3次団体は、四代目山口組組長の竹中正久時代に分裂した一和会との抗争資金を賄った組織だとされ、組長が使っていた銀行の貸金庫から実弾入りの拳銃が発見されたこともあった。それだけに、その動向については大阪府警捜査4課や組織暴力対策部がマークしてきた。実際、手元にある捜査関係資料にはこの組に対する融資実態の記録が数多く残っている。
たとえば大阪市南区日本橋筋1丁目や中央区道頓堀1丁目の土地・建物を担保に、30億円の融資とある。いずれも借主は社会福祉法人、担保物件の持ち主は女性だったり、会社だったり。ややわかりづらいが、捜査資料の備考欄を見ると、日本橋筋の土地の所有女性は組長夫人、建物は中国人名義となっている。また道頓堀の土地・建物の所有者は○×商事、社長が組長夫人だと記載されていた。
かなり生々しい記録といえる。いずれも〈事件性なし〉とされているので、単なる捜査データで、銀行はお咎めなしだったのだろうが、換言すれば、こうした融資が繰り返されてきたことの証左でもある。
「以前は反社との取引は、どこにでもあった。長らく銀行には“無記名口座”が認められてきたので、反社がそれを利用するケースも少なくなかった。実は今もそれは存在しているが、銀行側としても勝手に口座を閉鎖することができないので、残っている。今でも時折、それがオレオレ詐欺の振り込み口座や住宅ローン詐欺に利用されて問題になる」(警察関係者)
つまるところ、ヤクザはそれとわからないような偽装をするので、取引を絶滅するのは難しい。そこに見て見ぬふりをする銀行員の責任回避があれば、関係は断ち切れない。関係性を断ち切ろうとすれば、闇社会に対する恐怖もある。
逆説的にとらえると、みずほのように、取引や口座がそれと判明してなお放置すれば、延々と取引は続く。かくしてヤクザと銀行、そのズブズブの関係が続いてきたのである。
◆プロフィール 森 功(もり・いさお) 1961年福岡県生まれ。「週刊新潮」編集部などを経てノンフィクションライターに。「ヤメ検」(新潮文庫)、「許永中」(講談社+α文庫)、「腐った翼」(幻冬舎)など著書多数