東日本大震災から1000日余りが経過し、少しずつだが確実に復興へ向けて進んでいる。ところが、その震災復興事業によって、逆に被災者が苦しめられているケースも多く見られるという。インフラ整備や復興住宅建設事業がはらむ問題点を現地の悲鳴とともに摘出レポートする。
562平方キロメートル──農水省によれば、山手線の内側面積の約9倍もの大地が、東日本大震災の津波により冠水した。
あれから1000日余り。被災した各地で震災復興事業が進められているが、逆にそのことが被災地の足かせになっている本末転倒なケースが頻発しているという。宮城県の海岸部に住む50代男性が語る。
「私が住んでいる地域では、土地区画整理事業が行われています。災害に備え、10メートルほど土地を盛り、宅地化する事業です。ところが自宅がこの区画に入っていて、震災で壊れた家をリフォームしたばかりなのに、立ち退きを迫られています」
行政からの立ち退き料は、地価の影響で決まるという。冠水した土地の地価は下落が続いているため、立ち退き料で新たな住宅を求めることは難しい。
「この辺りは高齢者が多くて、その人たちに移転をする経済力はありません。震災を生き延びたのに、『これなら死んだほうがよかった』とうなだれる老人もいます」(宮城・70代男性)
宮城県出身で、震災瓦礫問題を取材した「ガレキ」(ワニブックス)の著者・丸山祐介氏は、人が消えていく宮城・岩手沿岸部の状況をこう解説する。
「家を建て直そうとしても、3年先。待ちきれずに土地を売って、住民がどんどん消えていっています。莫大な復興資金を投入して土地の改修を進め、宅地が整備されたとしても、もはや街としては成立しないでしょう。今の復興事業は誰のための事業なのだろうかと、考えさせられます」
12月4日の自民党環境部会のシンポジウムで、衆議院議員の小泉進次郎氏(32)と安倍昭恵総理夫人(51)が行った被災地の防潮堤建設を巡る討論は象徴的であった。防災目的を主張する小泉氏と、環境破壊を懸念する昭恵夫人が意見を戦わせたが、2人とも住民がいることを前提としており、まさに机上の空論でしかなかった。丸山氏は、復興事業の矛盾の要因をこう指摘する。
「震災以前から東北沿岸部は過疎地で、そこに明確な答えを出さないまま震災が起こり、とりあえず『3.11以前』を目指して歩みだしたことが原因です」
また、ある地元紙記者は、震災直後から「カネ」を求めて集まった人々がいることを明かす。
「地元市町村職員で震災と復興を経験した人はいません。そこで東京から大量のコンサルタントが流れ込んできて、復興までの絵図を売りつけてきたのです。計画は壮大なもので被災地に適したものではなかったのですが、ノウハウがないために一部でそれを復興計画としてしまった自治体もありました」
今日の被災者の苦しみは、当初から始まっていたのかもしれない。